現役CDOが組織デザインについて考えてみた
経産省・特許庁が推進している、『「デザイン経営」宣言』や『デザイン思考』など、昨今デザインに注目する動きが活発になっています。
英訳するとデザインは「設計」という意味。計画しプロセスや体勢を作ったりなどの行為も「設計」と捉えると、ある意味これもデザインと言えるのではないでしょうか。
今回はこれから管理職に就こうとしているリーダーの方へ、「デザイン組織の作り方」という書籍から、筆者(以降「私」)の経験則と共に「組織デザイン」にフォーカスしてお送りしたいと思います。
組織作りの基礎
新しいことをはじめるにあたり、新しいことに無理に合わせ、各セクションから人を召集し組織(チーム)が作られるということは、大企業やスタートアップであればよくあることだと思います。
確かにスピードも大事ですが、価値や指針、マインドセットなどの基本的設計がおざなりになってしまうと、
・やっていることがよくわからない
・意識や指標の共有が横断的に行われない
・やる気が出ない
・やっていることが散漫になる
などのことが起きてしまいます。
本書籍では、このことに関しての解決策として「目的意識の共有」と「限定的リーダーシップ」ということを解決策として提示しています。
「目的意識の共有」について
目的意識の共有とは、
・組織の全員に、その組織の意義と目的が共有されているか?
・スタッフ自身の意思決定の動機に繋がる情熱を理解しているか?
・上記を踏まえ、共通の目的意識をチームに与えているか?
・チーム憲章(ステートメント<短くてもいいので言語化したもの>)はあるか?
・アイデンティティを確立し、与えたいインパクトを明らかにしているか?
ということ。
このことによるメリットは組織全員が業務を行うにあたり、立ち戻る指針がありプロセスに対する正統性をメンバー・スタッフ自身が一定のレベルで自己判断できるいうこと。
目標のために分解された何かを行っていると、本当に為さなければ行けない目標からずれてしまうことは多々あると思います。
統一された憲章や目標があることで、自尊心の強いメンバーでもそうでないメンバーが入り混じった状況でも、マネジメント・教育コストを下げることにも繋がるのではないでしょうか?
「限定的リーダーシップ」について
本書では、明確な権限系統がある上で、意匠や製品の細部に関わる異常なこだわりを持たず、あくまで組織運営に徹し、経営幹部(役員)とのやりとりを行い、カスタマージャーニー上のあらゆる点にデザイン組織が関与できるように働きかけ、時にはハッキリ「No」が言える人。と、いう定義です。
※カスタマージャーニーとは、商品やサービスの販売促進において、その商品・サービスを購入または利用する人物像(ペルソナ)を設定し、その行動、思考、感情を分析し、認知から検討、購入・利用へ至るシナリオを時系列で捉える考え方である。
このようなことができるデザイン人材は、あらゆる知識を有し、配慮・育成・駆け引きにも対応できる相当な人格者で組織人。このレベルの人材はそもそも稀有で数が少ないので、定義の中から誰でも応用が効きそうな部分を抽出すると
意匠や製品の細部に関わる異常なこだわりを持たない(=こだわりを担当する別の人材がいる)
ということが重要だと思います。
そもそも、人が持つ能力やスキルセットは、組織の中で定義(号俸や等級など)されたり、一般的に統一された判断基準は特にないことを前提にした時、任せることや役割を分担するということを組織内で効率的に判断できる「線引き」があることというのが組織を運営していく一つの重要な基準になると考えるからです。
これは、単純に役割や職位よる分担ということ意外に、複数の人間が似たことを行い、生産性が上がらないという問題にも対応できる考え方なのではないでしょうか。
さらに、会社の規模が成長していくと、人が増えていくスピードとそれに合わせた構造を変えていくことを余儀なくされます。
常に組織の中で「線引き」が明確であると段階的な権限移譲と役割の分担が行えることにも繋がり、これらの基礎の準備により、変化の激しい状況にも対応できるのではないでしょうか?
私自身も実際、役割やそれぞれの職種の名前、職位、それらに紐づく役割を言語化し、定義したことで、四半期での組織変更にも柔軟に対応する構造を作っていました。
計画的組織構造のパターン
目的意識の共有やリーダーの定義を少し理解いただいたところで、本書では2つの組織構造が定義されています。それは、
・集権的組織構造
・分権的組織構造
これらは、組織の立ち上がりから成長していく中で会社にあった対応ができる組織構造が定義されているものになります。
ここでは、「集権的組織構造」と「分権的組織構造」それぞれの構造のメリット・デメリットをご紹介していきます。
集権的組織構造
一人のリーダーが、現場でのステークスフォルダーとのやりとりを集約し、それぞれの領域のスペシャリストにあった仕事を渡していく仕組みで、日本の組織のほとんどはこの構造が採用されているのではないでしょうか。
この構造のメリットは、
・指揮系統が明確
・一貫したカスタマージャーニーを保持できる
・そのことでスタッフやメンバーがその任された領域にフルコミットできるので効率がいい
・状況に合わせて、アサインメントを自由に変えることができる
ということ。デメリットは、
・指揮系統が明確すぎて、メンバーが自走できない(しない)
・できるメンバー・スタッフに仕事が集中しがちになる
・リーダー意外のメンバー・スタッフは、ステークスフォルダーのことを都合によって敵視しがち(組織という目線では最もデメリット)
ということ。
会社全体の意思決定構造が、このようなピラミッド式で、かつ人数の少ない(4〜5人)くらいの規模の組織だと、メンバーのスキルセットが一定のレベルで統一されている場合、このような構造でも十分に機動的に動くことは可能なのではないでしょうか?
しかし、人数が増え、4〜5人単位のチーム構成をこの構造にのっとって横に展開していく仕組みを作ると、リーダーを採用したり、リーダー候補を現場から排出したりなど、人の成長が直接課題になっていく構造とも言えるでしょう。
分権的組織構造
プロジェクトに合わせて分解された構造の中に、メンバー・スタッフをアサインしていくというもの。
この構造のメリットは、
・プロジェクトごとにメンバー・スタッフをアサインしていることで、プロジェクト内での成果にコミットでき、成果に貢献しやすく、個人の成果が見えやすい
・仕事を通じて、その領域の中でのメンバー・スタッフの学びが深く、大きい
・マネジメントコストが低いので、リーダーが他のことに集中できる
デメリットは、
・一貫したカスタマージャーニーを保持しづらい
・俗人的になり、ナレッジが共有しづらい
・プロジェクト以外のことがやりづらくなり、ピボットしづらい
・アサインされたメンバー・スタッフが孤立する可能性がある
・リーダーの意味が不明瞭になる
ということ。
会社全体の業務が様々な職種に交わる構造で、プロジェクト軸でのKPIの整理ができている前提になるかと思います。
複雑化した業務構造から脱却し、スピードをあげたい時はこのような組織体勢を作って試してみても有効かもしれません。
そして、メンバー・スタッフの成長を考慮すると、コミットメントの明確さや、プロジェクトの中で様々な人との関わり合い自走してプロジェクトに参画できるということは、かなりの成長に繋がるので、若手をドンドン育成していきたいという企業にはあっているかもしれないですね。
まとめ
ご紹介した、「集権的組織構造」と「分権的組織構造」、この2つを掛け合わせて応用した
・集権的パートナーシップ
という、ことが本書では定義されています。
しかし、この構造はまず「集権」「分権」での組織構造を段階的に経験した上で、既存のメンバー・スタッフが将来、リーダーになる。このようなことがうまく行った前提での構造だと私は捉えています。
それよりも、このような知識を身に付け、背景を考慮し、再現性高く「構造の設計」を実行に写すことができるリーダーがいることが重要だと考えます。
特に紹介した「分権的組織構造」は、会社内での指揮命令系統やKPIツリーの設計がそもそも分解されて会社全体の組織が構築されていないと、型にはめるのは相当難易度が高いことだと思います。
「分権的組織構造」をやってみたい。というよりも、それを実行するための準備、例えば、
・今のメンバーへのマネジメントは本当に正しいのか?
・それは、組織の構造や成果にあったことなのか?
・それをすることは、自身やメンバーの成長につながっているのか?
など、これらを冷静に会社・メンバー両方の視点で、課題を捉えることが、正しい「構造の設計」に繋がるのではないかと考えます。
同時に、『設計』という意味のデザインなら誰でもできることなのではないでしょうか。
それでは、「集権的パートナーシップ」や本書に興味がある方は、ぜひこの書籍をご購読ください。