多世代が集まる「昼スナック」のママに聞く年上部下との向き合い方
働き方や価値観が変化する中で、上司と部下との関係性も多様化し、若手マネジャーと年上の部下がタッグを組むことも増えてきています。
今回は、「昼スナック」という独自のプラットフォームを運営しながら、中高年から若いリーダーまで、様々なビジネスパーソンのキャリア支援をしている木下紫乃さんにお会いしてきました。
これからのマネジメントがどうなっていくのか、特に年上の部下と一緒に成果を目指す上でのヒントをお聞きしました。
木下さん経歴
1991年、新卒でリクルート入社。転職数社の中で主なキャリアの中心は企業研修設計、人材育成等。2016年に、40、50代の「自分で選ぶ働き方生き方」を支援する会社ヒキダシを設立。企業研修や中高年のメンタリングを生業とするかたわら、「昼スナックひきだし」を開店、紫乃ママをつとめる。プライベートでは結婚、離婚、再婚、駐妻、家出、再婚…など紆余曲折盛りだくさん。
「スナックひきだし」とは
ミドルシニアがこれからのキャリアを、研修やカウンセリングよりももっとざっくばらんに話せる場をつくりたい、と木下さんが2017年に本物のスナックのお昼の時間だけを借りてスタート。
「40歳以上のモヤモヤを解決」が当初のコンセプトだったが、現在は世代に関わらず、子育て中の女性や、就活で悩む学生等、様々な領域の、キャリアを立ち止まって考えはじめた人たちが集まっている。
木下さん自身が「お節介ママ」として茶々をいれつつ、ざっくばらんな会話を交わす中で、自分の持ち味を発見したり、人と人とがつながり新しい「縁」が生まれる場となっている。
気まずさや思い込みを上司側が放置していないか?
ーー木下さんが様々なビジネスパーソンとお話をされる中でマネジメントに関することで、よく出る話題は何でしょうか?
「私は50代くらいの中高年のセカンドキャリア支援だけではなく、40代くらいまでの管理職向け研修やコーチングなどもさせていただいています」
「また、『昼スナックひきだし』でも様々な業界や職種で働く方から仕事のお悩みを伺っていますが、最近マネジメント上の悩みとして多いのは、『年上部下との付き合い方』ですね」
「バブル入社世代が50代半ばで役職定年を迎える一方、雇用延長で働く期間は伸びてきており、30代40代の管理職にとっての年上部下はどんどん増えているのです」
「年上の部下を持つ若手管理職に話を聞くと、『以前の上役でもあった年上のチームメンバーには仕事を頼みにくい』『頑張ってももう評価されないから仕事をしない、と開き直っている年上部下がいて困っている』などという話をよく聞きます」
「会社としても昔は予想していなかったこの課題に具体的な手を打てず、若手管理職が悩んでいても手を出せないある種の『聖域』になってしまっているようにも感じます」
「一方で、部下となった年配者からは、『組織からの期待が分からず、何をすれば良いのか分からない』、あるいは『どうせ期待されていない』という意見を聞きます」
「もっと聞いたら良いのに、きちんと伝えたら良いのに、お互いに忖度し合っていることで、関係性も仕事も上手く回っていないように感じますね」
「これを乗り越えるためのきっかけ作りとしては、まず管理職側からあらためて自身の考えや想いを率直にぶつけてみることではないでしょうか」
「年上部下にも相手が年上だからと遠慮せず、その人の能力や可能性に見合った役割を明確に与え、どのように仕事を進めて欲しいのか、チームや組織にどのような影響を与えて欲しいのかという期待をしっかりと伝えることだと思います」
「この時に『上司だから』と上から目線での乾いた業務指示のような形にしてしまうと、年上部下は前向きになってくれません。日本的な価値観もあると思いますが、やはり年下の人から命令的にものを言われることを、面白くないと感じる年配者は多いです」
「それを踏まえて上司としては『あなたの〇〇の経験を頼りにしています』、『ぜひ皆を助けてください』というように、腹を割って、リスペクトを忘れずに、でもしっかり期待を伝えることが重要です」
「先日ある40代の管理職の方から、年上の部下から『最近頑張っているね』と言われて嬉しかった、という話を聞きました。このマインドセットは大事だと思います」
「普通、上司部下という意識で考えれば、部下が上司に『頑張ってるね』というのは不自然ですし、失礼にもあたりますよね」
「でもこの年上部下の方はおそらく昔後輩だった人が管理職となり、奮闘している姿を見て、称賛の意味で思わず声をかけられたのでしょうし、管理職の方もその先輩からの言葉を素直に受け取られた」
「この『嬉しかった』とおっしゃった管理職の方は、年上の部下にしっかり年配者としてのリスペクトをもって接しているのです。管理職としての小さなプライドよりも、部下に気持ちよく働いてもらうことが重要だということに気づいているんですよね」
「マネジメントの真髄は、いかにメンバーに気持ちよく働いてもらうかです。そのためにはまず相手が年上だろうと年下だろうと敬意を持つことが第一歩。その関係性の上で、年上だからこそできることを、見つけてもらうのです」
年上部下こそ一緒に成果を目指す仲間
ーーこれからの日本の企業におけるマネジメントはどのように変化していくと思われますか?
「やはり、今回お話ししているような年上部下を含めた、多様なメンバーの力をどう引き出していくかという点に関わる問題はずっと付き纏っていくと思いますね。そこで重要なことは信頼関係を築きながら成果を目指す姿勢だと思います」
「先ほどお話した通り、マネジメントの真髄はメンバーに気持ちよく働いてもらうことですからね。役職の高低ではなく、『一緒に成果を目指す仲間』としてお互いに信頼をし合うことが求められると思います」
「上司としての権威やプライドに拘っていては、マネジメントは難しくなる一方だと思います。これは、ダイバシティーマネジメント全般に言えることです」
「繰り返しになりますが、『期待をきちんと伝える』、『信頼関係を築く』、『リスペクトを忘れない』という点が肝になってくると思います」
「その上で、腫れ物に触る様な感じではなく、『役割を果たして欲しい』ということをきちんと伝えて欲しいですね。そしてここは一管理職が孤軍奮闘するだけでなく、会社からもそれを伝えるべきだと思います」
「逆に年配者の側としては、会社に残るからには、自分の果たすべき役割をしっかりと探すことが求められていくと思います。例えば、社内に閉じこもらずに、豊富な人脈を生かして社外の人脈をつなぎ、オープンイノベーションに繋げるという活躍の仕方もありますよね」
「また、例え定年になって会社を辞めても『末長く付き合いたい』と思って貰える関係性を組織の中で作ることも大切だと思います。そのためには、自分の業務を狭めずに周囲へ貢献することが必要です」
オープンマインドで弱みを見せることから始まる
ーー最後に、年上部下との関わりに悩む管理職へアドバイスをいただけないでしょうか。
「まずはオープンマインドで、自分が困っていることやチームのありたい姿を素直に伝えて欲しいですね」
「上司だからと『上から目線』で接するのは禁物。協力を求めるスタンスで『チーム運営が上手くいっていないので助けて欲しい』『もっとこんなチームにしたい』等をしっかり伝えていく。弱みを見せても良いと思います」
「そして『あなたの培ってきたこの力を貸して欲しい』と。上の世代の人は年下から命令されたくないけれど、実は何か支援したいと思っている人は多いのです」
「助けを求められることで、『しょうがないな〜』と腕まくりをしながら、前向きに取り組んでくれやすくなります。『弱みを見せられる『強さ』を持つ』、そんなマネジメントスタイルを身につけられると、あなた自身も楽になると思いますよ」