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部下の承認欲求をモチベーションに変える方法

数年前から「かまってちゃん」という言葉をよく耳にするようになりました。自分を認めてほしい心から、極端な言動を取ることで相手の気を惹き、構ってもらおうとする人を指す言葉です。

プライベートだけでなく、職場でも「かまってちゃん」に悩まされる人は増えてきました。

「かまってちゃん」たちは、人に認められたい意識が強いため、彼・彼女らを評価する上司が違和感を覚えることもありがちです。

人の心には「認めてほしい心=承認欲求」があり、本来はそれが仕事などのモチベーションアップにつながることも多いのですが、何らかの理由で欲求が過度になったり、欲求を素直に出せなかったりする人がいます。

そうすると、非常にねじれた形で「認めてほしい」と訴えてくるようになり、それが時に職場環境にも影響を与えるのです。

ここでは「認めてほしい」心が強い部下を抱えて悩んだとき、どのように彼・彼女らをマネジメントしていけばよいのかを、承認欲求そのものをひも解きながら考えていきましょう。

 

そもそも「承認欲求」の正体とは?

心理学の世界では、人が抱えるさまざまな「欲求」についての理論が存在します。

そのなかで、とくによく知られているのが心理学者、アブラハム・マズローによる「欲求5段階説」です。

1948年にマズローは論文のなかで、人は以下の1から5の順で欲求を抱き、自己実現に向けて成長していくと発表しました。

マズローの欲求5段階説

1:生理的欲求…飲食をしたり、眠ったりと、生きるための欲求のこと
2:安全の欲求…住まいの確保や保護者の存在など、安全に暮らすための欲求のこと
3:社会的欲求…「所属と愛情の欲求」とも呼ばれ、集団への所属や愛情を求める心のこと
4:承認欲求…他者に認めてほしい、尊敬してほしいという心のこと
5:自己実現の欲求…自分の能力を引き出したり、潜在的な可能性を求めたりする心のこと

マズローは、人の欲求は1から順に現れ出て、それがある程度満たされることで次の欲求が生じると考えました。

この説が生まれてからすでに70年以上が経ち、社会の成り立ちも変わり、またインターネット(SNSなど)も生まれたことによって、近年「承認欲求」の位置づけは変化しているとも言われています。

このように、いつの時代であっても、誰にでも「自分の存在を認めてほしい」という欲求はあります。

自分の評価を自分で決めるのではなく、誰かから一定の評価を得て居場所を決めてもらうことで、ようやく自分の存在価値が上がる……つまり、承認欲求は自分だけではなく、主に他者によって満たされるものです。

家族や恋人、友人から、無条件に受け入れられたいと願う心も承認欲求ですし、SNSで見知らぬ人も含めた大勢からの「いいね」数を求めるのも承認欲求です。

そして、もちろん会社組織においても、人は承認を求めます。

とくに、会社では昇格や給与などを自分で決めることができず、上司(他人)が評価を定めることがほとんどです。

「今の部署で、自分の能力に合うポジションを与えてほしい」「成長を認めて、昇給してほしい」などの欲求を叶えるために、人はさまざまな努力や工夫をこらし、承認を勝ち取ろうとします。

つまり、組織における承認欲求は、業務に対する個々人のモチベーションを上げるために必要であり、そのおかげで部署全体の活性化にもつながる場合が多いのです。

 

承認欲求が強すぎる人の心とは?

本来は前向きな努力に結びつき、モチベーションの向上につながるはずの承認欲求。

それがなぜ、ねじれた形で「認めてほしい」と訴えてくる人がいるのでしょうか?

そこには「自己肯定感」が関係してきます。過剰に他者に認めてほしいと願う裏には、自分のことを認められない心があります。

「他人が認めてくれなくても、自分(または自分の成果)に満足しているから別にいい」と思えれば、過剰に「認めてほしい」と訴えることはないでしょう。

また、もしも「現状の自分(または自分の成果)に満足できなくて悔しい」のであれば、「自分ならばいつかきっと実現できるから、努力や工夫をしよう」と考えるはずです。

でも、自己肯定感が薄いと、自分で自分を認められずに苦しみを抱えてしまいます。仮に周りの人が「能力がある」と認めていても、どんなときも「どうせ自分なんて」と感じてしまうので受け入れられず、過剰に「認めてほしい」とアピールすることになります。

もし実際に能力不足だったとしたら、周囲は「もっと頑張ればいいじゃない」と思いますが、自己肯定感が薄いと「頑張っても、自分なんてどうせ無理」と感じて頑張れず、無気力になったり、他者のせいにしたり、人を貶めたりと、極端な行動につながることがあるのです。

その行動のすべてには「認めてほしい」心があり、彼・彼女らはありのままの自分を信じられないので、どうしても「認めてもらえた」と納得できません。

その心の苦しさを想像すると胸が痛くなりますが、組織において極端な行動で「認めて」とアピールされ続けると、周囲の士気や団結力に影響を及ぼすこともあります。

とくに、昇進・昇給を決めたり、業務内容をマネジメントしたりする上司は、彼・彼女らにとっては「認めてほしい」相手であることが多く、真剣に向き合うほどに疲弊してしまう場合もあるでしょう。

調べていくと「承認欲求が強い人」には、いくつかの傾向があるようです。職場で見かけることの多い例を、いくつか紹介しましょう。

他者の注意関心や心配を求める人

頻繁に「もう会社を辞める」と言って、そのたびに上司や同僚から「辞めないでほしい」と引き留めてもらうことで、承認欲求を満たすパターンです。

頻繁に「体調が悪い」「休みます」と言って、心配されたがる人も同様の傾向にあります。頻度が増すごとに、最初は言葉を尽くして引き留めたり、心配したりしていた周囲も次第に「またか」と面倒に思って、構わなくなることが多いです。

本人も「構ってくれないなんてひどい」と感じ、「やっぱり認めてもらえないんだ」と落ち込んでいきます。頻繁に「辞める」「休む」と言われることで、部署内の士気が下がることもあります。

人を罵倒したり、キレたりする人

たとえば会議の場で、あからさまに同僚や後輩を罵倒して蹴落としたり、評価されないと頭にきてキレ出したりする人も、心の奥で「認めてほしい」と願っています。

「そんな乱暴な言動をしていたら、いつまでも認められないよ」と言っても、人から認めてもらうためには「自分の存在を過剰にアピールする」ことが唯一の手法だと考えてしまいます。

人前で、人を馬鹿にしたり、ののしったりして、自分が相手よりも上の立場であることを誇示することで、周囲に「自分は認めてもらうにふさわしい、上の立場の人間だ」と訴えているのです。

職場の人間関係にひずみを生む存在になることが多く、団結力に影響を及ぼすほか、本人が孤立してしまうこともあります。

不満や怒りをまき散らし、同情を惹く人

思ったような承認が得られないことに腹を立てると、誰彼構わずに不平や不満、愚痴、怒りの言葉をまき散らします。

上司や同僚に対する辛辣な批判や、業務内容や働き方への不満、職場であった嫌な出来事などを周囲に話します。もちろん、それが真実であれば周囲も協力して改善すべきですが、このパターンはそこで「それは大変だね、大丈夫?」と同情を誘うのが目的です。

また、承認欲求の強い人は「どうせ自分なんて」と考えがちなので、仕事においても「上司が自分だけに厳しい」「自分だけ作業量が多い」などと被害者意識を高めてしまう場合も。

時には怒りに任せてSNSなどに投稿することもあり、風評被害などにつながる恐れもあります。

無気力で仕事をほとんどしない人

周囲がどんなに「いい加減にしてくれ」と言っても、まったく仕事をする気がなく、遅刻や急な欠勤も多い。いざ仕事をしても投げやりで、ミスも多くて周囲がフォローするも、本人はどこ吹く風……そんな無気力なタイプの心にも、実は「認めてほしい」気持ちが隠れています。

「認めてほしいなら、もっと頑張ればいいのに」と思うでしょうが、本人は自己肯定感が薄いので「頑張ったところで、どうせ無理」と諦めており、気力がわき上がりません。

また、実はそれまで本人なりに頑張った時代もあったものの、結果に結びつかずに「どうせ自分なんて」と感じる経験を重ねた結果、気力が低下してしまった場合もあります。周囲がフォローのために奔走することになり、部署全体が疲弊することもあります。

 

承認欲求が強すぎる部下への接し方

上記はあくまで一例ですが、このようなタイプの部下がいた場合、彼・彼女らをマネジメントする上司は、どう対応したらよいのでしょうか?

承認欲求が強いことは特別なことでも、もちろん悪いことでもありません。

「認めてほしい」と思うからこそ、私たちは前向きな努力を重ねることができるのです。

上記のようなタイプを「承認欲求が強すぎる人たち」と考えるよりも、「自己肯定感が薄い人たち」だと考えると、おのずと対処法が見えてきます。

彼・彼女たちの心の底にある「どうせ自分なんて」という気持ちをほぐしてあげること。無理やり「君はすごいよ」と持ち上げる必要はありません。

ただ、できたことに対してはきちんと評価して、感謝やねぎらいの言葉をかけることで「ちゃんと見ているよ」とサインを出すことが、彼・彼女らの安心感につながるでしょう。もし、不安そうにしていたり、腹を立てたりしていた場合は、冷静に「何が不安なの?」「どうして怒っているの?」と声をかけましょう。

そのとき、相手のテンションに引きずられて感情的にはならないことが大切です。

責任感が強いと、部下に対して親身になるものですが、構いすぎると際限なく相談されたり、文句を言われたりする場合があります。

あくまで「上司と部下」の一線は引き、日々「君のことも気にかけているよ」とサインを送るのがベターです。

声をかけるときは名前を呼び、朝と帰りには挨拶をする、困っていそうなときは先に声をかける、任せられるところは信頼感を伝えるなどを日常的に続けることで、彼・彼女たちが少しでも「認めてもらえているのかも」と感じられるようにしてあげましょう。

そのためには上司と部下が互いに信頼できていることが必要なので、はれ物に触るような扱いをするのではなく、叱るときはきちんと叱る。

でもそのときも一方的に叱るのではなく、相手の話を聞きながら、対話することを心がけるとよいでしょう。

「どうせ自分なんて」という気持ちがほぐれれば、少しずつ自己肯定感が増していきます。

自分のことを信じられるようになれば、他者のことも認めることができるようになり、次第に過剰だった承認欲求がおさまってくるはずです。

そして承認欲求が満たされれば、マズローの「欲求5段階説」によるところの「自己実現の欲求」が高まり、自分のために、そして認めてもらえると嬉しい会社や部署の人たちのために、モチベーション高く業務に取り組めるようになるでしょう。

※参考資料
『承認をめぐる病』斎藤環(ちくま文庫)
『「認められたい」の正体 承認不安の時代』山竹伸二(講談社現代新書)
『「かまってちゃん」社員の上手なかまい方』大野萌子(ディスカバー携書)

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