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マネジメントを変える

メンバーの成長や理想の姿を思い描き、感情を共にしながら前に進む

東洋合成工業株式会社にて研究開発・マーケティング領域で事業を牽引する内海義之さん。周囲からは「マネジャーというより、温かいリーダー的な存在」と言われる内海さんに、人と組織のマネジメントについて伺いました。

本連載では、様々な業界のリーダーに「マネジメントで大切にされていること」をたずねます。

●紹介文
内海義之さん
大学卒業後、2001年に東洋合成工業株式会社に入社。入社後3年半で顧客サイドのビジネスに触れたいとの想いからレジストメーカーに転職。2014年に東洋合成工業株式会社に復職し、現在は執行役員 感光材事業部副事業部長、感光材研究開発部長、感光材マーケティング部担当部長として事業を牽引。

顧客に価値を届けるために、あらゆる部署を横断的に繋げる

ーー現在、どのようなミッション・役割を担われていますか?

「感光性材料に関するニュースが、新聞含めメディアを飾る機会はほとんどないので、皆さんにとっては馴染みが薄い業界かと思いますが、当社の手掛ける感光性材料は半導体をつくるために無くてはならない素材です。現在、長い半導体の歴史の中でこれまでに例がないほど半導体へのニーズが高まっている状態で、非常に速いスピードで技術革新が進んでいます。我々は材料メーカーとして、顧客であるレジストメーカーの開発プロセスに最適なタイミングで、ニーズに合う形で感光性材料を提供していかなくてはなりません。そのためには、適切なタイミングで生産設備の増設判断も必要です。ニーズをキャッチしてタイミングよく市場に出していくことが我々の最大のミッションです。事業拡大をしていくためには、個人、そして組織の成長はキーポイントだと考えています

「私は、感光材研究開発部とマーケティング部に所属しておりますが、自部門だけではなく、関係するあらゆる部署と連携しながら仕事を進めていく必要があります。特に当社の研究開発部とマーケティング部では、製品を世の中に出すために、工場や品質管理、品質保証や営業そして原料調達などの関連部署と密に連携しています。お客様に高品質な製品をお届けするために各部署と共に、一丸となって進めることが私の大きなミッションの一つです

ーー貴社では、特に部門間の連携を重視されていますか?

「当社は明確な部署ごとのタスクや業務範囲の区分けが無いことが一つの大きな特徴かもしれません。営業の進め方についても、開発やマーケティングの視点から意見やアイディアを出します。逆に営業も技術や開発のプロセスに積極的に関わってきてくれます。このような部署の壁を超えた動きが自然とできているのが当社ならではの強みだと感じています

「みんなが個々で主体的に動けている部分もありますが、時には『それはこの部署の責任範囲でしょ』とか『あの部署がやることだよね』など、足を止めてしまう時もあります。お見合いの状態を生じさせないようにすることは組織の課題であると認識しています。製品開発は、「これで正解」というものではないため、日々継続して改善を進めるようにしています。正しい方向に導くこと、難しい判断を迫られても最適なタイミングでベストな決断をすることは、時代を問わずに求められることです。俯瞰して全体像を捉えた上で、判断していかなくてはいけないと肝に命じています」

「出来るようになったこと」を伝え、
共に振り返ることで、メンバーの自信に繋げる

ーー内海さんご自身が、仕事上で大切にされていることを教えてください。

「例えば、技術に関するディスカッションの場面でも、上司や部下などの立場に関係なく、フラットに話したいというのが本質にあります。しかし、フラットさに拘りすぎると、逆にメンバーが遠慮するケースが起きます。良かれと思って伝えたアドバイスで、個々のメンバーの特性や良い資質などを潰しかねない状況にもなりますし、業務指示として受け止められてしまうこともあります。そのため、議論するタイミングや、どこまで口を出すべきかというのは、長年、慎重に気をつけています。個のキャラクターや個性を存分に、活かしたいと思います

「議論をしながら表情を見て、遠慮しているなと感じることがあった際は、『ここどう思う?何かないかな?』と話を振るように心がけています。そこでリアクションがない時は、『もし○○した場合は、どうなっているだろう?』というような投げかけをします。心がけていることは、“やや、遠回し”に言葉を投げかけるということです。1分、1秒でも早く問題を解決しなくてはいけない場合は、自らの意見や考えをストレートに話すことも多々ありますが、時間に余裕がある時は、極力、メンバー自身がアイディアを出してくれるように話を進めていくようにしています

とはいえ、10人いればアプローチの仕方も10通りです。個々に応じた対応については、日々試行錯誤しながら意識しています。

先頭を切るのが苦手な人には、慣れるまでは仕事の進め方や考え方を見せてあげることを意識して徐々に手を離していきます。何年か経つと少しずつ改善したメンバーもいます。

また、声が小さいために自信がないように見えてしまい、実力を出しきるチャンスを逃してしまっているメンバーもいました。そのような状況を変えるために、きっかけ作りの研修に参加してもらう他、一緒にお客様の所に行って説明の場を設けるようにしました。こうした機会を何度か作ることで、メンバーも次第に自信を持ってくれるようになりました。

他にも、上手く成果を出せず、同じ年代のメンバーと比べて『自分はできない人間だ』と、自信をなくすメンバーもある一定数います。そこで、『2、3年前だったら出来なかったことが、今はここまで出来るようになったよね』と成長過程をメンバーと共に振り返ることで前向きに仕事に臨めるようになったケースもありましたね。特に若い時は立ち止まって自分の成長を正しく理解するのは、なかなか難しいものです。だからこそ、上司が一緒に振り返って、メンバーの自信に繋げるということも大事だと思います

タイミングを見計らい、慎重にバランスをとる

ーー成長過程を振り返る時には、1対1で話す場を持っているのですか?

「タイミングを見ながら、1対1で話す機会を持つようにしています。例えば、メンバーの興味がありそうなことに気付けば、1on1のような対話をすることもあります。話をしてみると『やっぱり、そこに興味があるんだね。ならば今は成長するには一番良いタイミングだから、この部分を伸ばしてみたら?』など、具体的に提案するようにしています。落ち込んでいたり、悩んでいる様子を掴んだ時には、可能な限りタイムリーに声掛けをして1対1で会話をするようにしています

「メンバーから『少し雑談したいです』、『今興味を持っている業務があるんですけど、自分は向いていますか?』等、話を受けることもあります。このような声をかけてもらえるのは、貴重ですよね。逆の立場であれば、なかなか自分から行きにくいとは思いますが、乗り越えてきてくれるメンバーがいるのは嬉しいことです。当社は社長との距離も非常に近いですから、声を掛けやすい社風というのも要因だと思います」

ーー2点ほど、管理職の方が対応を悩みがちなケースについて、内海さんならどう対応されるかをご質問させてください。1つ目は、上司としてはアドバイスやフィードバックをしているつもりが、「なかなかメンバーが成長してくれない」、「1回とは言わないまでも2回、3回と同じことを伝えたら、覚えて欲しい」耐えるしかないのかというモヤモヤを抱えているというケースです。

「10のことを12を言わないと伝わらない、出来ないといったケースだってありますよね。その時は、『このアプローチで難しいならば、次はどうアプローチをしようか』と考えるということでしょうか。同じテーマについて5分で分かる人もいれば、1日あれば分かるという人も、数か月かかる人もいます。しかし、それも含めて個性として捉えるように考える角度を変えています」

個性として捉えると耐えることにはならないです。年下のメンバーが成長しているのを見て焦りや『自分は3年目なのに1年目に抜かれる』みたいな感覚を持つメンバーもいると思うんですよね。

そこはどう不安にさせず、それぞれの強みや個性を伝えながら本人に前に進んでいってもらえるのか、働きかけるタイミングを注意していますね。この課題をクリアできれば、きっと成長のきっかけを掴んでくれるのでは?と考えてテーマを渡したものの、なかなか最後までやり切ることが難しいケースもあります。その場合は、適切なタイミングで方針転換をすることもあります。成長のストレッチと無理の分岐のタイミングですよね。これを見誤らないよう、見極めのタイミングは慎重にしています。もし、このままのやり方で難しいのであれば、違うキャリアパスを一緒に考えるのか、役割を変えて、こうやっていきたいという合意形成を取るなどのアプローチを考えたいですよね。そのタイミングが非常に重要だと思います

「何でもバランスがとても重要で、メリットがあればデメリットもあります。人材育成においてもバランスが重要です。メンバーに寄り添えばいいのかというとそういう訳でもありません。様々な場面においてバランスはかなり重視していますね」

ーーもう1つよくお伺いするのが、年上部下への対応についてです。上司側が、相手の部下の方よりもお若い場合に、何をどこまで伝えるべきなのか悩まれるというお話は頻繁に伺います。内海さんはどのようにお考えでしょうか。

「確かに、年上の部下の方への対応に、苦慮されている方も多いように感じます。よく聞くのは、上司側が年上の部下に遠慮してしまって言い切れないという状況ですよね。私自身は、年齢に関係なく、平等に接するようにしています」

「最終的な自分達のミッションが何かという話ですよね。年齢を理由にして遠慮して言いたいことが伝えられないことによって、判断が鈍るのは本末転倒です。相談されたら相手を立てつつ、丁寧に言葉を紡いで合意形成することが大切だと思います」

常に目指すゴールを意識し、
理想を描きながら仕事を進めるきっかけを作る

ーー人と組織のマネジメントの観点で、大切にしていることを教えてください。

スケジュール管理や進捗管理に没頭するメンバーが結構いる中で、『してほしいのは進捗管理ではない』という話をすることがあります。自分達が目指す方向性や目標、ゴールに向けて、そこに到達するために、どのような判断をして、どう進めていくかを考えて行動することが大切だと思います。つまり、手段としての進捗管理に埋没せず目的を見誤らないように促すようにしています。

個のマネジメントで重要なのは、一人ひとりの個性を大切にし、個を活かすためにどういう成長やきっかけを与えられるのか、ではないでしょうか。成長の道筋を描きながら個々のメンバーにとって今、必要なきっかけを提供するようにしています。

そのため、チームリーダーにも近未来と長期の未来を見ながら、それぞれのメンバーにメッセージを伝えつつ、テーマを渡してほしいという話はよくします

「社会人人生は長いので、仕事を仕事として真正面から受け止めると、どこかでガス欠してしまいます。仕事だから仕方ないという考えは、極力避けたいです。視点を変えると、興味を持てることがあると思いますし、興味を持って取り組めるきっかけを与えるのが上司の仕事だとも思います。やらされているのではなく、『こうしたい、こうなれるかもしれない』と理想を描きながら仕事に向き合えるようにしたいですよね」

メンバーの成功や失敗も含め、感情を共有する
変化の過程に立ち会える喜びがある

ーー最後に、これからマネジメントを目指される方に向けてのメッセージをお願いします。

「マネジャー職は、方針や方向性を打ち立てることが必要になります。自分の意見を明確に発信できる方であれば、マネジャーを目指された方が良いと個人的には思います。最近は、『管理職はやりたくない』という声もあるようですが、意思決定に携わることができるのは、管理職の魅力だと思います。自分の意見や、メンバーの意見を反映させての上申は、ある程度のポジションにならないとできないですから、管理職の醍醐味だと思います」

「そして、メンバーの成功や失敗も含め、その感情を共有して喜んだり、一番近くにいて見てあげられるのは管理職ならではの経験です。メンバーの成長や理想の姿を思い描きながら、色んなきっかけ作りをしたり、スキルを磨くために一緒に行動できる。これは、管理職の一番の特権です。数年経った時に、『以前は塞ぎがちだったけど元気になったな』、『毎日休まずに出社しているな』、『あの人は、この水準でアウトプット出来るようになったのだな』といった成長への気づきは、メンバーを任せて頂けているからこその喜びだと思います

BELLWETHER

Bellwetherは、現場をなんとかしたいと思っているリーダーに向けて発信する、マネジメントメディアです。株式会社KAKEAIが運営しています。これから管理職に就こうとしているリーダーに、マネジメントとは何かを感じ取るための、様々な考え方や理論、組織を牽引するリーダーの考え方を幅広く紹介します。多様性を楽しみ、解なき複雑な時代に挑むリーダーを応援します。

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