書く瞑想で心理的安全性を高める ジャーナリングマインドフルネス
結束力を高めて、強いチームを作るために必要なのは、メンバー同士の信頼関係。
互いに心を開いて話し、互いの個性や価値観を受け入れることです。そこで試したい、マインドフルネスの方法があります。
一般社団法人マインドフルリーダーシップインスティテュート代表理事・荻野淳也さんによると、現在の組織改革のキーワードのひとつに「心理的安全性」があるそうです。
「心理的安全性(サイコロジカル・セーフティ)とは、素の自分が受容されている環境や雰囲気を指す心理学用語です。たとえば『これを言ったら馬鹿にされるのでは』と恥を感じたり、『これを言ったら空気を乱すのでは』と怯えたりすることなく、あるがままの自分をさらけ出せる場を指します。心理的安全性が高いチームは生産性が上がることをGoogleが発表し、近年注目されているキーワードです。心理的安全性が高いチームでは、互いをあるがままに受容できるので、メンバー同士の信頼関係が築きやすくなります。また、たとえばチームのために改善すべきことを上司に提言するなど、言いにくいことも発言しやすくなるので、創造性や生産性も高まります」
今回は、心理的安全性を高めるために、メンバー数人で試したいマインドフルネスの方法を教えていただきます。
互いの価値観を共有する書く瞑想
マインドフルネスとは「今、ここ」に意識を向けること。今の自分の心、体、周囲の状況に対して、しっかりと注意を注いでいる状態を指します。
そして、批評・判断を手放して、あるがままの状態を受け入れます。
そのメソッドを用いた「ジャーナリング」という方法があります。
怒りや不安など、モヤモヤしているときに気持ちを紙に書きだしたら、なんだかスッキリした……という経験のある方は多いでしょう。
ジャーナリングは、いわば「書く瞑想」。頭に思い浮かんだことを次々と書きだすことで、今ここにある自分に意識を向けていきます。
「テーマと時間を決めてから、マネジャーとメンバー数人で集まります。
最初は個人ワークで、テーマに対して頭に浮かんだことを書き出していきます。
次に、ひとりずつ、それを発表していき、最後に全員の発表を聞いた感想を語り合います」
荻野さんによると、チーム内の結束力を高め、信頼関係を築くのによいテーマは「私が本当に大切にしていることは……」だそうです。
「『私が本当に大切にしていることは……』というテーマは、価値観を共有するワークです。その人にとっての大切なことがわかると、お互いの価値観を理解できます。仕事の内容を書く人もあれば、家族や恋人、趣味などのプライベートや、感情や思想など、形のないものを書く人もいるでしょう。
そこで出てきた、それぞれの価値観を通して相手への理解が深まると、一緒に働くうえで工夫したり、サポートしたりできることが見えてきます。
たとえば、家族を大切にしているメンバーが働きやすい環境をみんなで考えたり、仕事の目標達成を望んでいるメンバーと一緒にできることを話し合ったりと、チーム一丸となって取り組めることを考えられるようになります。
また、価値観を共有することで、あるがままの自分を受け入れてもらえている安心感が増し、働きやすさがぐんと上がります。それは結果的に、パフォーマンスや生産性の向上につながります」
大切なことを伝えるジャーナリング
ここからは、具体的なやり方を説明していきます。
書き出す
最初は個人ワークです。マネジャーとメンバー数人で集まったら、紙とペンを用意。
「私が本当に大切にしていることは……」というテーマで「……」に当てはまる言葉を書きだしていきます。
単語でも文章でも、ポジティブでもネガティブでも、どんな内容でも構いません。5分~7分、書き続けましょう。
大切なのは、書き出す手を止めないこと。単語でも文章でも書き方は自由ですので、思いつくままに延々と書き出していきます。
思い浮かばずに手が止まったときは「何も思い浮かばない」など、心の状態を書いていくうちに、ふっと言葉が浮かんでくるものです。
発表する
書いたものを、ひとり1分半~2分ほどかけて、ひとりずつ発表します。
そのときは、話している人に対してしっかりと注意を向けて聞くこと。
もうすぐ自分の番だと思うと、人の話を聞かずに頭の中でまとめ始めてしまうものですが、きれいに話す必要はありません。
目の前で話している人の話に集中してください。
また、聞いているときに必要なのは、すべてのマインドフルネスにおいて重要な「批評・判断を手放す」こと。
自分の書いたものに対して「こんなことしか浮かばないなんて恥ずかしい」と思ったり、人が発表した内容を聞いて「それは違うんじゃないか」と批評したりはやめましょう。あるがままの自分、そしてメンバーを受け入れてください。
アクションを考える
発表された個々の大切にしたいものやことに対し、それぞれがどうアクションできるかを考え、話し合います。
たとえば、家族が大切なメンバーに対して、仲間がどう協力・サポートができるか。
つい「家に早く帰るためには、もっとこうしたほうがいい」とアドバイスしがちですが、マインドフルネスは評価・判断を手放すことが基本なので、自分が相手のためにできることを考えましょう。
「ほかにも、チームの結束力を高めるためには『私が感謝したいこと・人は……』『自分がベストな状態のとき、私は……』というテーマでのジャーナリングもおすすめです。半年に一度くらい、定期的におこなうとよいでしょう。
大切なものや感謝、ベストな状態を思い浮かべると、自然とリラックスできて、思いやりの気持ちが心に満ちてきますよね。
これらのテーマを共有するとき、人の脳はとてもよい状態です。その状態で話し合うと、メンバーのよい部分が見えてきて、本質をよく理解できますよ」
チームをまとめるのに役立つマインドフルネスについてお伝えしました。ぜひマインドフルネスを習慣づけましょう!
(取材・文=富永明子)
【荻野淳也さんプロフィール】
一般社団法人マインドフルリーダーシップインスティテュート代表理事。外資系コンサルティング会社、ベンチャー企業役員を経て企業。Googleで生まれたリーダーシッププログラム「Search Inside Yourself」の数少ない認定講師で、リーダーや組織の課題解決や変容を支援している。
https://mindful-leadership.jp/