片桐あい氏に聞くーテレワーク×マネジメントの肝
ただでさえ難しいマネジメント。テレワークが進みメンバーの働く環境が多様化した状況の今、「どうしたら成果を出せるのだろうか」とお悩みの方も多いのではないでしょうか。
今回お話を伺った、『これからのテレワーク 新しい時代の働き方の教科書』の筆者である片桐あいさんは、「テレワークでは上手く行かない、というのは思い込みかもしれない」と気づかせてくれました。
世界的な大手IT企業で活躍された後、企業研修講師として約25000名の育成に従事してきた片桐さんに、テレワークにおけるマネジメントについて聞きました。
●紹介文
日本オラクル株式会社(旧サン・マイクロシステムズ株式会社)サポート・サービス部門に23年間勤務。
コールセンター業務を経て、現場のリーダーへ。その後、海外メンバーとプロジェクトを立ち上げ、様々な業務改善で年間3000万円のコストセーブに成功。
その後も多くの困難なプロジェクトを成功に導き、2009年からは、人財育成担当として延べ1500名の育成に関わる。2013年に独立し、企業研修講師となり、約25000名の育成に従事。人財育成コンサルティングでは延べ3400名のカウンセリングでの育成にも貢献。
テレワークでは上手く行かないのか
ーーテレワークにおけるマネジメントの難しさについてどのようにお考えでしょうか。
「まず、テレワークにおいても決して仕事のゴールは変わりませんよね。その上で、テレワークにおいて、『マネジメントが難しい、直接会えないと上手くいかないだろう』という思い込みが一番の問題ではないかと思います」
「例えば、昔はお客様との重要なやり取りは手紙でした。そこにE-mailが登場した時、最初の頃は『正式な文書は、判子の押された紙の書類でなければならない』という意見も多かったようです」
「しかし、リアルタイムでスピーディーにやり取りができるE-mailのメリットに多くの人が気付き、現在は当たり前のように普及しています」
「テレワークも同じように、『上手くいかない』という思い込みが阻害要因になっている気がします。これは、上司と部下、双方に言えることです」
「ただ、上司が思い込んでいることの方が影響力が大きいですから、それが職場のルールやメンバーの共通認識になってしまいます」
「例えば『このウェブ会議ツールはセキィリティが不安だから使うのを止めよう』と上司が言えば、部下は使いにくくなりますし、改善のアイデアも出しにくくなります」
「リスクは適切に見極めながらも、今の状況の中で冷静に最適なジャッジをできるように、きちんと考えて欲しいです」
「そういった思い込みを乗り越えた後の難しさとしては、メンバーのことが見えにくくなるという点です。これまでは三次元の世界でやり取りをしていましたが、今は二次元の世界でのやり取りになり、上司が自分から情報を取らないと部下の様子が分かりません」
「とはいえ部下側も慣れている訳ではないないので、お互いに網の目のようにコミュニケーションを取りながらしっかりと連携することを意識して欲しいですね」
ざっそうタイムで活発な会話を
ーーテレワークにおけるマネジメントの中で、具体的に実施すべきアクションや工夫は何でしょうか。
「上司は、『どうしていきたいか』を明確にすることが大切だと思います。例えば、現在は7割のテレワーク実施が要請されていますが、それが各企業の特性や事情によって難しいこともあると思います」
「そんな中で、上から一方的に『7割実施しよう』と推進しても、現実離れしていてメンバーはついてこないと思います」
「例えば『3割からはじめよう、事情のある方からはじめよう』のように現実的な目標を決めて、メンバーとしっかりとコンセンサスを取りながら進めることが重要だと思います。チームの中であるべき姿を話し合い、個人の事情を聞き取った上で推進する事が大切です」
「また、チームで目的を共有することも重要です。1人で仕事をしていると目的を見失ったり、自分の作業が何の為なのかを忘れたりすることがよくあります。成果物が期待とずれてしまうということも起こりがちです」
「それをきちんと確認するチェックポイントを設けないと、上司からすると、「頼んだものと全然違う!」という事態が起きてしまいます。これは、部下にとっても上司にとっても不幸なことですよね」
「確認は双方から 行うことが大事です。しかし、部下側としては、『上司に時間をもらうのは悪いな』等の遠慮が出てしまうこともあると思います。ウェブのアイコンでは、上司の機嫌も分かりませんから様子がわからず声がかけにくいということもあります」
「私がお勧めしているのは、業務時間を『コミュニケーションタイム』と『集中タイム』に分けて、お互いにオープンにすることです。コミュニケーションタイムは、お互いに積極的にコミュニケーションを取る時間です」
「また、朝礼や昼礼も見直されています。『ざっそうタイム』って聞いたことがありますか?雑談と相談の頭文字を合わせた造語なのですが、それをランチの後に設定して、みんなが自由に入って雑談や、お客様とのやり取りを相談したりします」
「こういった時間を作ることで、お互いに理解を深め、自然とずれを解消することができます」
「また別な観点として、こういった時間をランチタイムの後に設定する事で、みんなのお昼の時間をゆるやかにコントロールできるというメリットもあります」
部下と成果の認識を合わせる重要性
ーーメンバーが成果を出す為の上司として適切な関わり方はどのようなものでしょうか。
「まずは『成果が何か』ということをすり合わせることが重要です。成果には、数値化できないものもありますし、時間をかければアウトプットができるもの、またそうでないものもあります」
「それらを一概に比べることはできませんから、部下それぞれの仕事に合わせて、丁寧に認識を合わせることが大切です。そうしないと、言われたことだけをやる指示待ち社員が増えてしまう恐れがあります」
心がオフラインにならないように
ーーテレワークの中でメンバーの状況を上手に把握する方法はあるでしょうか。
「逆説的ですが、上司側が自己開示をすることが大切だと思います。テレワークにおいて、ウェブツールでつながっている時間だけは格好つけて、弱みを隠すことはできます」
「しかし、そうすると人らしさが感じられなくなってしまいます。「テレワークではこういうところが不安なんだ」のように、自分の悩みや困りごとを素直に見せることが大事です。それによって上司自身が楽ですし、周りも楽な気持ちになります」
「例えば、ITリテラシーの非常に高い若手社員からアイデアを出してもらうには、『こんな状況だから一緒にやろう、助けて欲しい』と伝えても良いと思います」
「そうすること自然と情報が集まってきます。そうでないとどんなにオンラインで繋がっても。『心がオフライン』になってしまいます」
「上司も部下も互いに自己開示ができるチームは強く、お互いに助け合うことができます」
部下が楽しむ為に、自分も楽しむ
ーー最後に、これから管理職になる皆さんへのメッセージをお願いします。
「最近は『管理職になりたくない』という若手が増えてきていますよね。理由を考えてみると、上司がただ単に疲れていたり、辛い姿をそのまま部下に見せる人が多いからだと思います」
「正解がない時代に自分自身がより良い組織を作っていく訳ですから、失敗を恐れずに大変ながらも前向きにチャレンジして、その姿を部下に見せて欲しいですね」
「今はいろんな意味で走りながら正解を探すということが求められていると思います。経験のなさが、むしろ失敗を恐れずにやり切る糧になるのではないでしょうか。自分がチャレンジを楽しむということを部下やメンバーと一緒にできると良いですね」
「先が見えないから怖いと感じるかもしれませんが、振り返ってみると、先が見えた時代なんて無かったんですよね。例えば過去のリーマンショックを乗り越えてきたようのに、今の苦労を、後になって、『こんな事もあったね』と振り返ることができると思います。チャレンジをしながら学び続け成長し、自分の器を広げて欲しいなと思います」
「失敗したり、ある程度の弱みを自己開示しても、前向きにチャレンジしていれば、単なる疲れた上司には見えないですし、それを見た部下が『こんな管理職になりたくない』とは思わないと思います」
「そういった意味では、プレゼンスマネジメントが重要だと思います。単純に『最近寝てなくて疲れてるんだ』のような自己開示の仕方ではなく、きちんと戦略的に自己開示をして欲しいですね」
「人を巻き込む為にある程度の弱みを見せながら、一方で部下が楽しんで前向きに仕事をできるように、上司自身も楽しんでいる姿を見せて欲しいなと思います」