1. HOME
  2. マネジメントを変える
  3. 社会を変える「成長とのバランス」マネジメント
マネジメントを変える

社会を変える「成長とのバランス」マネジメント

様々な業界のリーダーに「マネジメントで大切にしていること」をたずねる本連載。

今回は、全国の農家さん・漁師さんなどの生産者と消費者を直接繋ぐC to C プラットフォーム「ポケットマルシェ」の企画・開発・運営を行う株式会社ポケットマルシェ (以下、ポケマル)取締役 COO 山口幹生さんにお話を伺いました。

with コロナで食においても変革が進む中、農林水産省の生産者支援事業に参画し「#新型コロナで送料無料」でも改めて注目を集めている「ポケマル」。

「個と個をつなぐ」をミッションに「共助の社会を実現する」というビジョンを掲げるリーダーが考えるマネジメントとは?

●紹介文
山口幹生(やまぐち みきお)株式会社ポケットマルシェ 取締役COO
大手電機メーカーの経営企画、RCF復興支援チームにて復興支援事業に従事、経営コンサルティング会社を経て、山口商店合同会社を設立。大手企業と新規事業の企画と実行、ベンチャー企業の事業推進、中小企業の海外展開推進、インバウンドに関する企画運営などのテーマについて、経営支援や自社事業立ち上げを行う。2018年8月より現職。

西洋に学ぶが、コピペはしない

——山口さんのマネジメントの考え方やアプローチに影響を与えていることはありますか?

「これまで様々な組織でマネジメントをしてきましたが、自分のなりのマネジメントの思想を改めて振り返ってみると、根底で意識していることがあります。それは『日本人の独自性』です。今、様々なメディアやSNSで『今の時代に求められるリーダー像』『これからのマネジメントとは?』といった記事をたくさん目にします。しかし、それらを読むと出典や成功事例が海外のものが多く、西洋の価値観や意識に基づいていると感じます」

「大手電機メーカーの経営企画時代に、3年間イギリスで管理職を務めたのですが、日本人と海外の人のマネジメントに対する意識は根本的に違うことを実感しました。それは会社にいる時と日々の生活の中の両面から感じたものです。つまり『『そういう暮らしをしていたら、会社におけるマネジメントの在り方はこうなるのか』と感じる事が多々ありました」

「何が一番違うかというと、ルールの重みです。法治国家西洋のルールに対する意識は、日本とは根本的に異なります。具体的にシンプルな例で紹介します。イギリス駐在時代は車通勤だったのですが、ある日同僚が『いやー、スピード違反で捕まっちゃったよ』と言ったんですね」

「イギリスの細い道は、制限速度30km/h です。私は『一体、何キロ出してたんだよ?』と聞いたわけです。そうしたら、その同僚が『32km/h 出てたんだよね』と答えたのです「私は思わず『え、32km/h で捕まるの?』と聞き返してしまいました。同僚は『当たり前じゃん、30km/h をオーバーしてたんだから』と。これが西洋の文化です」

「日本ではコミュニティルールがあって『制限速度30km/h の道を、32km/h で走っても捕まらない』とどこかで思っていることが多いのではないでしょうか。一方、西洋の場合は、制限速度30km/h というルールがあったら、その基準は絶対です。1つ方向性が示されたら、必ず遵守すべきものがルールであり、それに逸脱したらアウトであるという考え方が西洋は定着しています」

「でも、日本はそうじゃないと思っているんです。会社の指針や就業規則があっても、なんとなく、それとは別のコミュニティルールがある。そして、そのコミュニティルールに従った方が『生きていける』とみんな思っているのではないかと感じます。その意識を踏まえたのが、日本流のマネジメントだと思います」

「法治国家として生きてきた西洋の企業のマネジメントとコミュニティルールが最優先の中で発展してきた日本の企業のマネジメントは異なります。だから、西洋の物に従いすぎてはいけない。もちろん一定の学びはあるものの、それをコピペしてもダメだというのが根底にあります」

「また、西洋のマネジメントはJD(Job Description:職務記述書)に基づいたものです。JDを明確にし『あなたの仕事の目的はこれです。KPIはこれで、日々の業務の成果を測ります』というやり方です。給与・ボーナスのうち『この割合は、あなたの成果』『この割合は、今後の期待値』そして、プラス何%が会社としての業績だと明確にします」

「イギリスでは、その数値管理を担って、賞与スキームの策定や何をKPIとして業績連動とするかを設計していました。発見だったのが、海外の人は、KPIが定まると面白いくらい全力でそれを上げにいくんですね。私は評価を集約する立場とは言え、ただの管理職だったのですが、それでもKPIがいかなかったときのアピールが半端ない」

「『KPIは達成できなかったけれど、これは俺のせいではないだろ。売上が上がらなかったのは生産が遅れたせいだ』などと主張するのが一般的です。ルールの遵守と同様に、KPIに対しても忠実です。JDに基づくマネジメントは、一見、管理しやすいですし、目標に対しての進捗も明確になります。しかし、JDに基づいて仕事をすることに、あまりに不慣れである日本人は、それをやった瞬間に病むなと思いました」

「これらの体験がマネジメントに向き合う上での根幹にあるように思っています」

成長とバランスすべき3つの軸

——ポケマルでのマネジメントでは、どのようなことを大事にされていますか?

「ポケマルのCOOに就任した時に思い至ったのが、バランスです。西洋型の成果を求めつつ、一方で日本型の仕事への意味づけを行う、そのバランスですね」

「西洋型の成果をどういうスタイルで追求するのが良いかを検討した中で、Googleを参考にしています。社会に対してインパクトを出すためにも、きちんと成長はしなくてはなりません。成長というキーワードを発展させるために、Google型のOKRを採用しています。会社としてやるべきかを3ヶ月ごとにサイクルを作り、そこから個人ごとの施策に落としていって何をするべきかを明確にしています。そこには絶対必達で取り組むこともあれば、チャレンジもできるように、7割達成するような数値目標を設定し100%を実現できるように努力をする設計です」

「ここで気をつけているのは、OKRの達成度と人事評価をリンクさせないこと。これはGoogleの考え方を参考にしていますが、先ほども触れたように、西洋的な感覚では、KPIが評価に連動した途端に、チャレンジングなテーマを設定しなくなってしまうからでしょう」

「しかし、日本人は逆で、そもそも自己評価が低く、達成しなかったことを全部自分のせいにする傾向があります。KPIが達成しなかった時にはメンバーから『自分、まだまだっす』『自分が頑張っていれば、もっといけたはずっす……』という話になります。そこで上司側が『いやいや、そうじゃなくて。もっと客観的に評価しようよ。あなたは頑張っているよ』という謎の逆転の会話が繰り広げられがちです。こんな状況を回避しながら、成長のためのOKRを設定し、体制を作るようにしています」

「一方で、ポケマルという会社の特殊性を考えた時に、成長が全てではないというのが根幹にあります。つまり、僕らがやりたいのは、社会の変革であり、会社が大きくなれば良いというものではありません。もちろん、会社が大きくなればインパクトは大きくなるので比例はするわけですが、一言で言うとポケマルのチャレンジは『長い戦いになる』と思っています」

「ゴーイングコンサーン(継続企業の前提)とはちょっと違うのですが、第一次産業の大きな課題、大規模なものを僕らの望む未来に向かって変えていくには、すごく時間がかかります。だから、すごく時間がかかるのに適した組織を作らなくてはいけないと思ったのです」

「つまり、成長や成果を中心とした組織を作ると、それがうまくいかなかった時にみんな離れていってしまうリスクがあるということです。なので、成長しながらもバランスをとる。成長とバランスをとるべきなのは『元気』と『感動』と『仲間』の3つの軸だと考えています。それぞれの定義はこのようなイメージです」

元気:ちゃんと毎日が楽しい

 

「『締め切りがあるから頑張れる』という頑張り方ではなく、日々が少しずつ、安定していく、楽しくなっていく。毎日1つずつ積み重ねていくために、元気でいられるということを作りたいです」

 

感動:日々『良かった』『嬉しい』『悔しい』がある

 

「日々の仕事の中でちゃんと心が動く状態を作りたいです。ウェルビーイングであるためには、喉が乾くことも必要です。日々のオペレーションを淡々とやるだけでなく、少しでも『良かったな』『嬉しかったな』『残念だったな』『悔しかった』というものが日々にあるようにしたいと思っています」

 

仲間:仕事の関係を超えた安心や信頼を感じられる人がいる

 

「レビュー面談で、1対1でメンバーと話をするのですが、そこで僕がやっているのは相手に安心してもらうようにすることだけです。面談の時は、『成長』と『元気』『感動』『仲間』の3つの軸のバランスでどちらが上になっているかを見ているという感覚です。スタートアップは当然、成長を求められるので、会社も個人も『成長』に傾きがちです。そうすると、メンバーには具体的な貢献ができていないという勝手な自己否定が生じがちです。私は『スタートアップなのだから』という世の中にある言い訳感を排除したいんですよね」

「安心・安全が必要な人には『わかるよ』と伝えたいですし、人生におけるフェーズの中で仕事も大事だけど、子育ても大事だという時期の人もいます。人生50年は働くのですから、その中で数年くらい子育てが大事という時期があって然るべきです。だからそれをみんなで支え合えるようにしたいと思っています」

「長く取り組まなくてはいけない活動で事を成すために『成長』と『元気』『感動』『仲間』の3つの軸のバランスを意識しながら、体制や働き方、評価の仕組みを1つずつ作っていこうとしています」

「日々元気にいられて、感動を共有でき、仲間であるという意識が生まれるのを土台にしながら成長に向けて頑張っていく。でも、これはシステマチックにはできなくて、結局一人ひとりと話をして、その人がどんなことを考えているのか、日々見ていくことで分かってくるものだと感じています」

「例えば、採用をする時に、スキルの高い人とカルチャーフィットの高そうな人のどちらを採用すべきか、という議論があります。成長と3つの軸のバランスで見ると、後者の方が大事だと思います。会社のミッションやビジョンにちゃんと共感して、他のみんなへのプラスの波及効果を出してくれるか。『いい奴』つまり、元気・仲間・感動にプラスに作用してくれる存在かどうかが一番大事です」

「マネジメントを型にはめるのは無理なので、大きな方向性を土台にしたしながら、個々のメンバーに応じて言葉や対応を変えながら取り組んでいくのですが、それこそがマネジメントの面白さではないでしょうか。これをスケールさせていくためには、管理職同士でマネジメントスタイルを共有して、同じ意識でメンバーに向き合える管理職を一人づつ増やしていくのみだと思っています」

元気な状態を作り、自治と参加へ

——ポケマルは今後どのような組織を目指していくのでしょうか?

「元気とやる気は分けて考えているんです。やる気を出すと、やる気がなくなった時に疲れますよね。経済に対する見方に、不況期に公共投資をして好循環を生み出そうとするケインズ型と景気は循環するものであるというシュンペーター型がありますが、後者の考え方です。元気がなくなったからといって筋肉注射をすると、切れた時にさらに辛くなります」

「元気は通底しているもので、やる気は短期的なものですが、みんなやる気を意識しすぎているように思います。啓発本を読んだり、誰かに相談する事でやる気は高まりますが、それは麻薬のようなもの。日々の生活や職場環境、周りの人との関係などの外部要因の影響をたやすく受けてしまいます」

「一方、元気は、文字通り根っこにあるもので、本来は環境に左右されないものです。だから『ポケマルという会社で、みんなが元気でいられるために何が大事か?』を意識しています。また、最近はテレワーク下で『元気』『感動』『仲間』をどう実現するかを考えていています。家で黙々と仕事を進めても安定な人もいれば、離れていると不安になる人もいます。正直、まだ答えはないですが、リモートが良い人、良いタイミングがあるので、チーム内で相談しながらメンバーが自分なりに判断して決められるようにしています」

「あくまで社会が変わっていくことが大事です。社会や人のために何かをするには、取り組む側に余裕がないとできません。また、日々の生活が安定して余裕がある状態でいないと、人のためにやっていたはずが、相手が成功した時に羨ましくなってしまう。それも何か違う気がします。働くメンバーがきちんと元気をコントロールできるように『他の会社にいるよりも、この会社にいることが良いということを言語化できる状態』を作っていきたいです」

「ポケマルは、一次産業も社会も『統制と依存』から『自治と参加』へと転換していくと考えています。『都市と地方の関係』『見えない物を見えるようにする』先々は『途上国と先進国』など分断を乗り越えるということを大きなテーマにして、それを会社としてのミッションとビジョンにしています。一人のカリスマが『こういう社会が望ましい、システムはこれだ』と言って何かを変える時代ではなくなっています。ポケマルは、お客様と生産者をはじめ街中の人に火をつけて、社会にじんわり広げようとしています」

「やはり、私たちは生産者に武器を届けたい。ポケマルのやっていることは生産者が『こんなものを作りたい』『第一産業をこうしたい』という意志を持った時に、それを世の中に広めるための武器を渡しているとも言えます。それは、社員という視点でも同じで、会社も『統制と依存』ではなく『自治と参加』を実践していきたいです」

▼ポケットマルシェについてはこちら


▼会社概要

BELLWETHER

Bellwetherは、現場をなんとかしたいと思っているリーダーに向けて発信する、マネジメントメディアです。株式会社KAKEAIが運営しています。これから管理職に就こうとしているリーダーに、マネジメントとは何かを感じ取るための、様々な考え方や理論、組織を牽引するリーダーの考え方を幅広く紹介します。多様性を楽しみ、解なき複雑な時代に挑むリーダーを応援します。

アクセスランキング

運営会社