あなたは誰のために人を褒めますか?
先日、とある大手企業の部門長の方に「マネジメントで大切なこと」についてお話を伺う機会がありました。特に印象深かったのが、「部下を素直な気持ちで他の誰かと比べることなく、すごいと思った時はすごいと伝える」と仰っていたことです。
しかし一方で、褒めることはとても難しいものだと思います。なぜなら、本人の成長や、ひいては人生に対して良くも悪くも影響を与えてしまうからです。
私自身、過去上司に褒められた時、ポジティブに捉えながらもさらなる成長のために努力を続けたこともありました。一方で、放漫になってしまい、努力を遠ざけてしまったこともありました。
そもそも、「褒める」とは何なのでしょうか。今回は、この点について少し考えてみたいと思います。
褒めると人はどうなるのか
まずは褒める行為が人に対してどのような影響を与えるのかを見ていきましょう。
有名な実験があります。アメリカの発達心理学者エリザベス・ハーロック博士は1925年に「やる気」について調査を行いました。
ハーロック博士は、対象の子どもたちを以下の三つのクラスに分けて、5日間にわたって計算テストを実施させました。
その中で、答案を返す際の教師の態度を以下のように分類しました。
A)点数に関わらず、できたところを褒める。
B)点数に関わらず、できていないところを叱る。
C)点数に関わらず、何も言わない。
その結果、Aクラスが5日間続けて成績が上がり、最終日には約71%の生徒の成績が上昇しました。
Bクラスについては2日目までは成績の向上が見られたもののそのあと失速しました。
Cクラスは初めのうちだけ成績が向上が見られましたが、そのあと大きな変化はなかったといいます。
これを、エンハンシング効果と言います。
上記の実験は子供に対するものですが、大人にも当てはまると言われています。
また、マズローの欲求5段階説においては、「褒める」は上から2番目の証人欲求に該当します。
5段階の欲求はそれを満たさないとその上の欲求を実現しようと思えないので、承認欲求を叶えないとその上の自己実現欲求を満たそうと考えることができません。
つまり。これが満たされないと、創造的に仕事に取り組んで成果を出すことはできないという見方もできます。
一方で、安易に褒めることは逆に相手のモチベーションを下げてしまいます。例えば、やさしい課題ができたことを褒めてしまうと、実力を低く評価され、期待されていないと感じてしまうかもしれません。
また、あまり根拠なく褒めていては、部下は「何か裏があるのか?」と勘ぐるでしょう。
重要なのは「褒める」ことではない
具体的な「褒め方」にフォーカスすると、テクニック論に落ちてしまいがちなので、改めてそもそもなぜ「褒める」のかを考えてみたいと思います。
マネジメントにおける褒めることの目的は、私は本人の成長に繋げるためだと思っています。大袈裟にいえば本人の人生の成功のためとも言っていいかもしれません。
だとすれば、「褒めるために無理やり褒める」のではなく、ある場面での部下に対する接し方の中で、その時に最善である手段を取った時に、たまたまそれが「褒める」であることが理想的なのではないでしょうか。
つまり、単純に部下の行動をできるだけ褒めれば良いのではない、ということです。
目指すべきは、部下をよく観察し、これまで見逃していた、気づかなかった場面を多く見つけ、接することだと思います。それによって、結果的に褒める量が増えるのではないでしょうか。
また、本人の成長を考え、あえて褒めないというタイプの人もいらっしゃるかと思います。その方がある時に「褒める」ことの意義を知った時には無理やりに褒めるのではなく、あくまで部下をよく観察し、気づきの絶対量を増やすこと、そしてそれに対して素直に感嘆することで、結果的に褒める絶対量を増やすことが重要なのではないかと思います。
ここで、冒頭でお伝えした部門長の方の言葉が思い出されます。
「部下を素直な気持ちで他の誰かと比べることなく、すごいと思った時はすごいと伝える。」
部下に対する気付きを増やして、その上で素直な気持ちで感嘆することで、自然と褒める機会は増えるのだと思います。
皆さんも、後輩や部下に対する気付きをさらに増やし、素直な気持ちを発信してみては如何でしょうか。
※本記事の一部は以下のウェブサイト及び資料に記載の内容を参照または引用して執筆致しました。
深く御礼申し上げます。
https://uxdaystokyo.com/articles/glossary/enhancing-effect/
https://www.ac-illust.com/
https://diamond.jp/articles/-/178811?page=3