
「使えない」は本当?部下の力を引き出すためには
一人ひとりの個性を活かす、従業員が活き活きと働く環境を作る、というメッセージのもと、「ダイバーシティ」や「エンゲージメント」などが一般的な言葉としてメディアに登場することも多くなってました。
その一方でたくさんの組織で「使えない」「厳しい」「腐ってる」などと思われ、本来持っている可能性を発揮できていない人が多くいるのではないでしょうか。
私自身これまで企業の組織開発や人材開発の支援に関わる中で、部下が活躍できないことを部下だけのせいにしてしまう、あるいは、どうやって成長を支援すれば良いかわからないというマネジャーの方々とたくさん出会ってきました。
そして「使えない」と”思われている”部下が、世の中に多くいることを目にしてきましたが、それは本当に部下が「使えない」のか?上司が「活かしきれていない」だけではないのか?そんなことを感じることが多くありました。
また、自分自身もマネジメントに関わる中で、部下の能力を引き出すことの難しさを実感してきました。
だからこそ、そのように”思われてしまっている”部下の可能性をどうすれば引き出せるのか、真剣に考えてきました。
私自身にももちろん一つの正解があるわけではありませんが、自身のマネジメントの原点にもなった部下とのエピソードも交えながら部下の力を引き出すために抑えておきたいポイントを話していきたいと思います。
まずは自分の目でちゃんと「観る」
あいつは◯◯だから”は本当?
「あいつは◯◯だから」という言葉を皆さんも一度は聞いたことがあるのではないでしょうか。
もしかすると自分も無意識に言ってしまっているかもという人もいるのではないでしょうか。(ちなみに私も言ったことがないとは断言できません)
会社や組織には様々なメンバーがいて、お互いを自分のレンズで見ています。
そこには絶対的な「良悪」「上下」はないけれど、企業や組織のレンズの中で「あいつは使えない」「あいつはダメだ」と思われてしまっている人がいるというのも事実だと思います。
そして、そのレッテルは一度つくとなかなか変えられないものです。
(一方で、「彼はすごい!」「彼女は良いよ!」という印象を一度持たれた人は、何をやっても上手く進むということもありますね)
それでも、「使えない」と”思われていた”人が大きな可能性を持っていたり、企業にこれまでと異なる価値を提供したり、周囲の想像を超えた成長をすることがあります。
そのために最も大事なことは、周囲が言っていることに惑わされず、勝手な判断をせず自分の目で相手を見続けることではないでしょうか。
私自身の一人の部下との出会いも、そんな周囲の思い込みや批判的な声からスタートしました。
彼(Aさん)が入社2年目のタイミングで、私はトレーナーとして彼をサポートする役割になりました。
最初に周囲から言われたことは「あいつは社会人として甘いから鍛え直してくれ」「あいつは結構厳しいからあまり手をかけすぎなくても良いと思うよ」「うちの会社の仕事はちょっと違うんじゃないかな」という言葉でした。
入社後1年間、Aさんは上司や先輩から全然仕事をしない人間だと思われ、半日以上もフィードバックを受け、長期休暇の前日には夜遅くまで叱責され、「あいつはダメだ」と多くの人に思われていました。
もちろんAさんと接し始めた時は、私もとても頭を悩ませました。やる気が感じられない、言ってることが伝わらない、自分から動かない、どうしたいのかもわからない、私の目にもそう映っていました。
そんな期間が1年以上続きました。
それでも周囲の声や自分の解釈だけで判断せず、自分がまだ”活かしきれていない”という意識だけは忘れずにAさんと向き合うようにし続けました。
自分なりに、Aさんの毎日の行動や些細なことでも対話を繰り返していく中で、Aさんは本当は自分なりの強い想いや考えを持ち、チャレンジ精神と責任感もあり、何より自分なりにトライ&エラーを繰り返しながら学んでいくのがスタイルなのだとわかってきました。
恐らく、これまでの上司やトレーナーが良かれと思ってアドバイスをしていたことがAさんにとっては信頼されていない、任されていない、自分の考えが取り入れてもらえないというすれ違いになってしまっていたのだと感じました。
私は自分の目で時間をかけてAさんと向き合う中で、Aさんの「自分でなんとかしたい」「失敗しても良いからチャレンジしたい」という気持ちを大事にサポートしていくことにしました。
誰よりも可能性を「信じる」
メンバーと向き合うことの怖さと面白さ
そんなAさんとの付き合いの中で、忘れられない時間があります。
一緒に仕事をし始めてから1年後、私とAさんの関係はトレーナーとトレーニーから、上司と部下になりました。
しかし1年経っても大きな変化は見れず、煮え切らない状態が続いており、私もまだ彼の本音や気持ちががわかりませんでした。
次第に彼はこのままこの会社にいて幸せなのか、ここにいることは彼にとってベストなのか、そんなことを考えるようになりました。
そんな中で自分にできることは何かと考えた果てに、会社という今いる組織の中での上司・部下の関係性ではなく、Aさんの人生も含め、ちゃんと向き合うことが必要なのだろうと思うようになりました。
そして、ある日クライアントとの打ち合わせ後の新橋駅でした。「もしかすると、ここじゃなくても良いんじゃない?」と思い切ってAさんに投げかけてみました。
もちろん解釈はたくさんある表現です。それでも自分なりに本気で向き合い、相手のことを信じているからこそ勇気を持って伝えられた言葉でした。
それを伝えることに怖さを感じていることが、Aさんと本気で向き合えている証拠だったのではないかと今は思っています。
その時、Aさんがこの言葉をどう受け取ったかはわかりませんが、キャリアについて率直に相談してくれたり、転職という選択肢も含めてAさんのキャリアについて話し合える間柄になれたことは、Aさんにとって会社の仕事という枠に閉じないパートナーとして認めてもらえるきっかけになったのではないかと感じています。(
ちなみにAさんは様々な選択肢を模索しながら、今もその仕事に向き合っている)
上司と部下の関係性に正解はないですが、上司にできることは、まず相手を信じることだと思います。
時に怖さを感じることもありますが、それは部下に本気で向き合えている証拠だと思いますし、それを乗り越えた先にマネジメントの面白さがあると思います。
そして、転職が当たり前になり、部下にも様々な選択肢がある中で、より広い世界の可能性も含めてフラットに相談できることがマネジメントの重要な要素になるのではないでしょうか。
部下ならではの勝ち方を一緒に「探す」
上司にできること
とはいえ、部下に向き合ったからといって、簡単に成長するようなものではないと思います。
成功体験が成長のきっかけになると言われていますが、最も大事なことは、部下なりの勝ち方を一緒に見つけてあげることだと思います。
特に「活かしきれていない」メンバーは、これまでの成功モデルや会社のモノサシで測られているために、燻っていることが多くあります。
変化が激しい昨今において、これまでのやり方だけで会社は勝ち続けられるでしょうか。勝ち抜くためのヒントを「使えない部下」が持っているかもしれません。
私とAさんが所属していた会社にも、成功モデルや暗黙知としての”優秀さ”が共通認識としてありました。
(もちろん多くの会社にそういったものはあると思います)
お客様とじっくり時間をかけて目的や課題を整理し、その上で具体的な打ち手を提案する。
プロダクトアウトではなくニーズをとにかく共通言語化することに価値を見出す。それが正解だったように思います。
(自分自身もそれを大事にしてきたし、このやり方の方が上手くいく確率が高いと今でも思っています)
しかし、大切なのはAさんが成長し、成果を出す上でそれがベストな方法であるかどうかだと思います。
自分にも正解はわからないですが、本人がやりたいように任せてみる。
1回上手くいかなくても部下自身が納得できるまでサポートし続ける。それが大事なことのように思います。
感じたままにアイデアをぶつける、ハマらなければ次の手を打つ、質より量、精度よりスピード。
そんな彼の戦い方に任せ始めて1年後、お客様からの相談量が圧倒的に増えていきました。
正直、私にはどうしたらそのやり方で相談をもらえるのか、よくわかりませんでした。
けれど、自分にはできない戦い方でAさんが結果を出し始めていることは確かでした。
そしてお客様に話を聞きにいくと、「私(お客様)は自分でいろいろ考えたいから、一緒に整理してくれる人より、生煮えの状態でもたくさんアイデア持ってきてくれる人の方が助かるんですよね。」「あれだけ動いてくれると、何かお願いしないと申し訳ないなと思っちゃうんですよ笑」と仰っていた。
「じっくり3ヶ月かけて一緒に課題を整理して、そこで初めて具体的なアイデアを1つ出す」のではなく、「3ヶ月の間に10個のアイデアをぶつける」方が嬉しいお客様もいる。
彼がお客様から信頼を得て、成果を出していったのには、なんら不思議なことではないと気づきました。
そして自分なりの自信を持ち始めると、少し距離を置いていても、必要だと思ったポイントで自分から積極的に相談に来るなどの変化も起きてきました。
自分ができることに自信が出ると、人の意見も積極的に聞くようになるんだなと強く印象に残っています。
そんなAさんが成長を実感していたと私が感じたのは、一緒に働く外部パートナーとの仕事の話だった。
月に一度の振り返りの中でAさんが発した「一緒に仕事を創るっていう感覚がわかってきました」という言葉は、上司にできることは何かを考え直すきっかけにもなり増ました。
上司として部下に向き合い、成長を支援するために関わっていくのだが、実は上司一人でできることには限界がありますし、どれだけ自分の勝ち方を探す支援をしてあげられるかということだと思います。
その中で大事なのが、部下が成長するために必要なパートナーを見つけること、人を繋ぐこと。ますます会社や組織の垣根が取り払われ、人と人の結びつきが大事になる時代だからこそ、自分一人でどうにかしようとせず、部下の成長にとって必要な”人”を繋ぐことが上司の重要な役割なんだと感じています。
そして一緒に動き始めてから2年半後には、「あいつすごいな」「Aさんの動きはホント助かるわ」と会社の上層部の印象も大きく変わりました。
さらに「Aさんは本当に頼りになります」「相談するのはAさんですね」という後輩から慕われる声まで、彼を頼る声が聞こえてくるようになりました。
自分にしかできない価値を発揮し、組織を繋ぐ存在としてみんなから認められているAさんの姿は私にとっても本当に嬉しいことでした。
相手の存在価値をちゃんと「伝える」
上司は部下の広報担当
最後に、そんな部下にとって、上司がどんな存在でいるべきか、私なりの考えをまとめます。
まずとにかく部下の強みや可能性を誰よりも自分が信じ、社内外に広報し続けることではないでしょうか。。
「活かしきれていない」部下は、その時には何をやっても好意的に捉えられなかったり、実際は表裏一体である強みと弱みのうち、弱みの部分に焦点が当てられがちです。
だからこそ、周囲の声に惑わされず、会社のモノサシに拘りすぎず、自分自身の言葉で部下の凄さを伝え続けること。
成果を出せるまで信じてサポートし続け、これまでのやり方とは違うかもしれないけど、会社にもたらす価値の大きさを伝えること。
上司が悩んでいるのと同じように、部下も悩んでいる。そんな背中を押し続けられる存在でいることだと思います。
そして、上司-部下という役割だけでなく、一人の人間として相手を尊重すること。
仕事ではなく、人生を応援し続けられるようになること。そんな感覚が、これからの時代に必要になってくるのではないかと思います。
転職が当たり前の時代になり、会社という枠組みよりも一人ひとりの繋がりが大切になる中で、どんな上司と出会うかは、部下の人生を左右すると言っても過言ではないと思います。
その一つ一つの出会いが素晴らしいものになり、会社の枠を超えて繋がりを持ち続けられることが、個人や組織の成長や幸せに結果として繋がるのではないでしょうか。
私は運よく素晴らしい部下と出会うことができましたが、だからこそ人の可能性を信じることが大事だと改めて感じています。
部下が「使えない」のではなく、私たちが部下を「活かせていない」。そんな意識を持ち続けることが大事だと思います。