
部下とプライベートについて話せる関係になるには
働き方改革や新型コロナウイルスの影響もあり、テレワークや育児のための時短勤務、副業など働き方の多様化が進んでいます。
そんな中だからこそ、一緒に働く人との信頼関係やより良いコミュニケーションがより大事になっています。
しかし、信頼関係やより良いコミュニケーションを築こうとする際に失敗してしまうパターンがあるようです。
それは「部下との距離を縮めるためにプライベートの話をしようとする」ことです。
確かに業務の話から離れてプライベートについて話すのは新鮮ですし、普段とは違った一面を共有することで距離が縮まる気がします。
一方そんな上司からのアプローチに困惑する部下もいるようです。
今回はプライベートについて話をしたがらない若手部下の心理と、そんな部下と距離を詰める際に大切なことについてみていきます。
プライベートに踏み込まれたくない?
「セクハラ」「パワハラ」ハラスメントに関する言葉がよく聞かれるようになり、部下のプライベートについて踏み込むことに戸惑う方もいるのではないでしょうか。
特に「若手はプライベートに踏み込まれたくないという考えが強く、干渉してはいけない」といった情報も見聞きします。
実際、部下は上司にプライベートについて話をすることを避けたいと感じているのか、データを見てみました。
新入社員を対象に一般社団法人日本能率協会が行った「2019年度新入社員意識調査報告書」では、新入社員と上司それぞれに「(新入社員にとって)理想的だと思うのはどのような上司か」という質問をしました。
上司側の回答として、プライベートな相談にも応じてくれることを重視しているのは全体の4.6%と、やはり部下のプライベートには干渉しない方がいいという考えが見て取れます。
対して新入社員は、約5人に1人(18.2%)が理想の上司の条件としてプライベートな相談にも応じてくれることを重視しています。
部下のプライベートに踏み込むのはタブーだという見方があるものの、当の部下にとってはプライベートについて話をすることが必ずしも嫌なことではないということが分かりました。
鍵は若手と”ラポール”を築くこと
では、プライベートに踏み込まれた時の部下の戸惑いの原因は何なのでしょうか。
それは、これまでプライベートの話をしたことがない上司から唐突に踏み込まれることにあります。
もちろん上司からしたら距離を縮めるための一歩なのですが、それが分からない部下はいきなり自分のプライベートの話が始まることに困惑してしまいます。
そうならないためのポイントは”ラポール”を築くことです。
ラポール (rapport) とは心理学用語で、信頼関係のことを意味します。
信頼関係、といってもそのイメージは人によって様々で、「仕事の納期を守る」「その道で影響力がある」といった実績やポジションからの影響を考える人もいると思います。
しかし、ここでいう信頼関係とは「自分のことを見てくれている」「自分の話をしっかり聞いてくれる」「自分のことを理解してくれている」といった安心感が生まれる関係であり、ある種感覚的なものです。
ラポールが築けていないと、部下は自己開示をしようと思いません。
業務については直接関わるため上司に話をすることはあっても、直接関係のないプライベートについて開示をする必要はないからです。
「自分のことを見てくれていない人に話そうと思わない」「話してもしっかりと聞いてくれない」「話したところで理解してくれない」と思ってしまいます。
若手とラポールを築くには
それでは、ラポールを築くにはどうすれば良いのでしょうか。
「ミラーリング」「ページング」といった距離を縮めるためのテクニックはありますが、本質的には相手への
- 誠意
- 好意
- 敬意
をしっかり持ち、かつそれを感じてもらうということが大切で、テクニックはあくまで感じやすくするための手段です。
誠意:相手のことを親身に思いやる気持ち
好意:その人のためになりたいと思う気持ち、親切な気持ち
敬意:尊敬の気持ち
部下は、これらの気持ちを自分に持ってくれているかどうかを、何気ない仕草や言葉の端々で感じ取ります。
マンパワーグループが2019年に入社2年目までの若手世代に対して実施した、「上司との信頼関係に関する調査」によると、上司を信頼できる理由として「部下の話を真剣に聞く」「頭の回転が速い」「良いところを褒めてくれる」「悪いところはきちんと指摘してくれる」「差別したり贔屓したりしない」といったことが上位にきています。
逆に上司を信頼できない理由は「高圧的な言動」「人によって対応が変わる」「仕事の指示が分かりにくい」「相談しても助言してくれない」「仕事を丸投げする」といったことが挙げられています。
頭の回転が速い、というのは能力的な話ですが、それ以外はどれも部下に対しての「誠意」「好意」「敬意」につながります。
例えば「部下の話を真剣に聞く」というのは誠意や好意、「差別したり贔屓したりしない」というのは誠意や敬意の表れです。
逆に「高圧的な言動」は(少なくとも部下からみたときには)敬意を欠いたものとして受け取られます。
ここが難しいのですが、自分が相手に対してこれらの気持ちを持っていることと、相手がそれを感じ取れることは必ずしもイコールではありません。
「伝え方は本質ではない」という言葉をたまに耳にしますが、伝え方によって本質が伝わらないこともあります。
(もちろん甘く接すればそれで良いということではありません)
また、その気持ちが行き過ぎないようにするということもまた重要です。
誠意が行き過ぎると部下は恐縮します。
好意が行き過ぎると一歩引かれてしまいます。
敬意が行き過ぎると、逆に距離が生まれてしまいます。
これらの気持ちを抱きながらも、相手が受け入れられる形で伝える。
まずは一つ意識してみるだけでも、部下の受け止め方が変わりきっと距離が縮まっていくはずです。