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チームを強くする

サッカーのように一人ひとりが自走するチームに

株式会社ビザスクで執行役員を務める井無田さん。米系投資銀行に入社し、風通しの良い職場で新入社員生活をスタートさせました。8年目に伝統的な組織文化の部署に異動。カルチャーの違いに驚いたと話します。自身の経験から、マネジメントで最も大事なことは「メンバー自身が成長できるように経験を積む機会を提供する」ことと強調します。本連載では、様々な業界のリーダーに「マネジメントで大切にしていること」をたずねます。

井無田ゆりかさん(執行役員、FIG事業部事業部長 個人情報保護士)
2003年に慶応義塾大学法学部卒業後、JPモルガン証券株式会社に入社。アジア初、新卒で内部監査部に配属。2006年に本社であるニューヨークへ転勤し、2年勤務。帰国後、2013年に第一子を妊娠、出産。その後、夫の仕事の関係で自身は退職し、再びアメリカへ移住。その2年後、帰国し株式会社ビザスクにコンシェルジュ部の部長として入社。

ハンズオフのマネジメントスタイル

——マネジメントで大切なことは何でしょうか。

「前提として、ゼロイチから部署を立ち上げて、自分でメンバーをアサインするマネジメントと、すでにあるチームに入るケースとでは、全然違うと思います。私の場合は後者。はじめは『こうあるべき』という思いを捨てて、現場の仕事についてインプットする時間を増やすようにしています。」

「大事なことは、普段の業務の中で、メンバー自身が自分の仕事をどう思っているか、何にやりがいを感じているか、嫌だなとかストレスが溜まっている業務は何だろうかと知ることだと思います」

「その背景には、サッカーのようなチームづくりが理想だと思っていて。フィールドにキャプテンはいるけど、監督は出ていけない。そんな環境でも、メンバーが自分で状況を判断して、何をすべきか考えられる状態をつくる。そのために、一人ひとりが強みややりがいを持って発揮できる場所に配置してあげる。ある意味、ハンズオフのマネジメントスタイルだと思います」

「リーンな関係が好きなので、ティール組織みたいなのが理想としているところですね。私に評価されると思って動いて欲しくはなくて。メンバー自身がいかに、自分自身を強くするか、自分の価値をあげるかというところが、会社で提供できる価値だと思っているので、『機会を提供すること』がマネジメントの最大の仕事だと思っています」

メンバーの苦手はしない方向で考える

——自走して欲しいけれど部下が思うように仕事を進めてくれないことってないですか?

「そういう場面は、どんな会社でもあると思います。まずは達成しないといけないことに対して、どういったステップがあるのか、どうすれば効率よく達成できるかを考えます。けれど仕事におけるプロセスの中で、『こうした方が効率良いけど、自分はこのステップが苦手』というものが出てきますよね」

「それを強要すると、本人のストレスになってしまうので、『やったことがなくて嫌』なのか、『やったことがあって嫌』なのかは、区別するようにしています。やったことがあって苦手なのであれば、それを通過しないといけないステップはやっぱりストレスでしかない。少し時間がかかるかもしれないけど、どうすれば自分の中で心地よくできるか、『自分のやり方』で達成できる方法を一緒に考えようとしています」

「ゴールを達成するまでの道筋を一つに決めてしまうと、その過程のどこかで不安や不満を感じる場面もでてしまいます。ストレスが溜まるような苦手なやり方は、『しないでもいい方向』を模索するようにしています」

一見扱いづらいメンバーは組織の起爆剤

——年代差ギャップがある組織などは、どうしても意見の風通しが悪くなることがあると思います。メンバーが主体性を持って取り組むためのコツはありますか?

「何かモヤモヤを抱えている人は、より良くするための意見を持っている人だと思います。以前、入社2ヶ月の若手メンバーが、会議中に口を『へ』の字にしていることがありました。会議後に、『どう思ったの?』と聞いたところ、ミーティングの内容について前職との解離があったようで、本人の中でも具体化されないモヤモヤがあったみたいです」

「話を聞く中で、組織の未熟な部分を高めてくれる貴重な意見だと思って、まずは感謝しました。『私も気づいていなかったところだから。むしろ描いているものがあるんだったら、どうやってできるかインプリ(実践)してよ。みんなでやってみようよ』とお願いしました」

「誰か1人の役職者が話して、他のメンバーは俯いているって会議ありますよね。そんな場は嫌だと思って。メンバーが話したいことを話す時間がとても良い時間だと思っています。そのメンバーは、積極的にミーティングの改善に取り組んでくれました」

「ビザスクは多くの人が中途採用ですので、それぞれの会社のベストプラクティスを聞いて、みんなで良くしようとするカルチャーをつくることを意識しています。一人ひとりの大事なところと、嫌なところを拾い上げて、その地雷に踏み込まないよう配置や役割を考えるのが大切だと考えています」

ヤンチャだった寝坊助井無田さん

——個人を尊重するマネジメントスタイルになった経緯を教えてください。

「ロールモデルになったのは、新卒の時に出会った1人の上司でした。彼はアメリカ人で私が配属された監査部の上司でした。最初の1on1で、彼から『5年後にどうなっていたい?』と聞かれました。『私は海外で働きたい』と答え、もう一つお願いしました。9時出社にさせてもらえないかと」

「銀行の出社時間は8時45分でした。でも、監査部にはお客様窓口があるわけではないので。それに私は、15分遅れて行く方が仕事で力を発揮できる!と思っていて。ただ単に寝坊助とも言えるんですが、朝の15分の心理的余裕が1日のパフォーマンスに大きく影響するわけです。でも普通これは反応が二つに分かれますよね。『新卒のくせに何言ってんだ!』っていう人もいると思います」

「でもこのアメリカ人の上司は、『確かに8時45分に来る合理性はないよね』と許可してくれました。ある日の、彼からのコメントで、『あの交渉を最初にしてきた度胸、考えは素晴らしい』と褒めてくれたんです。そんな上司に出会えたので、ただ『ルールを守っとけよ!』みたいな、理由がないことに従うことは違うんじゃないかって思って」

「そんな原体験が『嫌なことはさせない』というのに繋がっています。上から言われていることをただこなして、一方的に評価される構造って企業によってはありますよね。給料の高さとか、その他のインセンティブがあれば頑張れるかもしれないけれど。でもそれ以上のものではないなと思って…。逆に仕事へのモチベーションとか、本人の経験をどれだけ積むかとか。そういったものがないと暗い組織になって、ただ目の前の業務をこなすという風になってしまうなと」

「オペレーショナルな動きではなく、常に工夫できないかと問うようなマネジメントスタイルになりました。まだまだ試行錯誤中ですが」

失敗前提に7割の「デキ」を目指す

——変化し続けられるような工夫はありますか?

「何かの課題について解決方法を考える時、全ての状況において100%機能する仕組みを考えようとしてしまいがちです。ビザスクに入って、アジャイル開発などのメソッドを学ぶ中で、PDCAをいかに回すかが大事だと思いました。メンバーには『70点くらいなものを考えよう」と伝えていて、失敗を前提にトライするようにしています」

「必ず穴があるという前提で進めば、例外が出ても想定の範囲内になるので不満が出ないんですよね。二週間のタイムラインで施策を2-3周回すと、だいたい1ヶ月くらいで形ができてきます。ただのTODOになると面白くないんですけど、仮説検証になると面白いんですよね。まずは『7割正解のものを二週間試してみる』。これを共通言語にすることが大切だと思います」

コンディションを見ることの重要さ

——最後にこれからマネジャーになる方へアドバイスをお願いします。

「軍隊のような体系の組織もあるとは思うのですが、私の理想はプレミアリーグのサッカーチームです。今のビザスクでいうと、主役は20-30代の選手たち。30代後半は、どちらかというとメンタルケアも兼ねた存在でフィールドに立っています」

「40代の私のような人間は、ベンチで戦略を考えます。ベンチから『みんなコンディション大丈夫かー』って、声を掛けるような監督が理想です。スポーツのマネジャーに置き換えると、メンバー一人ひとりのコンディションを見ていて、ビジネスのマネジャーにも近いところが求められているのではないかと思っています」

「それに加えて、マネジャー自身の視座をあげるために、努力し続けることが大切です。そのために、社外の人とか、他部署の人と話す機会を一定時間、確保するように努めています。自分の取り組みを客観的に説明し、新しい情報もインプットする。マネジャー自信が成長し続けることが大事だと思います」

BELLWETHER

Bellwetherは、現場をなんとかしたいと思っているリーダーに向けて発信する、マネジメントメディアです。株式会社KAKEAIが運営しています。これから管理職に就こうとしているリーダーに、マネジメントとは何かを感じ取るための、様々な考え方や理論、組織を牽引するリーダーの考え方を幅広く紹介します。多様性を楽しみ、解なき複雑な時代に挑むリーダーを応援します。

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