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コミュニケーションの 質を高める

怒りを鎮め ストレスを和らげるマインドフルネス実践法

ストレスフルなビジネスマンにとって、マインドフルネスは習得したい、重要なスキルのひとつです。個人の成果を出しながら、部下の育成やフォローをしてチームとしての成果も出す必要のあるマネジャーが、マインドフルネスを取り入れるとよいメリットについて、前回解説しました。

今回からはいよいよ実践編! 一般社団法人マインドフルリーダーシップインスティテュート代表理事・荻野淳也さんに、チームをまとめるマネジャーが怒りや不安に苛まれたとき、心を鎮めるマインドフルネスの方法を教えていただきます。

怒りをコントロールしにくい理由

部下に任せた仕事の遅れやミスをフォローしたり、全体の成績が上がらずにカバーしたり、上司と部下の間で板挟みになったりと、マネジャーになると人に対するさまざまなストレスが生じます。

なかなか動かず、変わらない部下に対して怒りや苛立ち、不安など、ネガティブな感情に苛まれることも多いでしょう。とくに「怒り」に支配されると仕事が手につかなくなり、ひどい場合は怒りに任せてパワハラとも取れる言動に出てしまうことも…。

そんなマネジャーに向けて、荻野さんはマインドフルネスがベースにある「アンガーマネジメント」が必須だと言います。

「電車に乗ると自然とスマホをさわっていたり、自宅に帰ったらいつの間にかテレビをつけていたりと、無意識のうちに動いているときがありますよね。

これを『自動操縦(Auto Pitot)状態』と言いますが、怒りに任せてひどい物言いをしたり、手が出たりするのは、自動操縦状態にあるということ。つまり、衝動に任せて反応してしまい、意識的な反応・行動が選択できていない状態なのです。

怒りに駆られたとしても、そのあとの反応・行動には本来、無数の選択肢があるはずです。たとえば、締め切りを守らない部下に対して怒鳴り散らすのではなく、なぜいつも遅れるのかを聞き出したり、今回は注意せずに静観したり、自分以外の人から注意してもらったり、冷静に厳しく伝えたりと、さまざまなやり方があります。

でも、意識的に選択できない人は、いくつもの選択肢があることに気づけず、衝動的に反応・行動してしまい、後悔する羽目に陥ります」

衝動的な反応をすると、自分も落ち込むほか、部下が離れていき、下手をするとパワハラで訴えられることもあります。荻野さんによると、ハラスメント問題が深刻化している欧米のリーダーシップ論では、アンガーマネジメントは必須項目となっているそう。

「私たちは、自分が期待したような状況だったり、あるべき状態に反したことが起こったりすると、つい衝動的に反応してしまいます。

自分の中の『こうするべき』『こうあるべき』という理念に反することが目の前で起こると、瞬間的に苛立ってしまう。

脳科学のメカニズムでは、私たちが怒りや悲しみなどの衝動にかられたとき、脳の中の扁桃体が反応します。扁桃体は衝動的な反応を司り、例えば、原始時代に猛獣に襲われそうになる等、命に関わる危険が目前に迫ったときに、考える間もなく反応するための生命維持の装置。

現代では、原始時代のような危機がしょっちゅう現れる訳ではありませんが、その代わり予想に反した出来事があると、扁桃体が反応して、理性的な判断ができなくなってしまうのです。

これを『扁桃体ハイジャック』と言います。扁桃体ハイジャックが起こると、理性的な脳である前頭前皮質が扁桃体を抑制できず、怒り続けてしまうのです。

なので、ハイジャックが起きる前にそれを避けるために、自分の怒りに気づき、衝動的に反応することをマネジメントする必要があるのです。そこで役に立つのがマインドフルネスです」

そのためには、まず「今、衝動的な怒りを抱えている」自分の反応に気づくこと。前回、解説したようにマインドフルネスとは、今の自分の心、体、周囲の状況に対して、しっかりと注意を注いでいる状態を指します。

マインドフルな状態になると、衝動的に動く手前で、自分の怒りを客観的にとらえられるようになるのです。

怒りを鎮める5つのステップ

荻野さんによると「マインドフルネスでは、怒りを鎮めるために『SBNRR』という5つのステップを推奨している」そう。怒りに駆られたときに順を追って思い出したい、5段階の思考ステップはこちら!

1.S=Stop(反応を止める)

「怒りがこみあげてきて、つい口や手が出そうになったら、いったん立ち止まりましょう。そして、口から出かけた声や上がりかけた手を止めてください」

2.B=Breath(呼吸をする)

「次に、深呼吸をすることで、いったん自分をリセットします。1と2で、目の前にある状況に対して間を空けることで、マインドフルな状態に入りやすくなります」

3.N=Notice(気づく)

「自分の身体反応に気づくプロセスです。心と体はつながっているので、怒りを感じた瞬間に、胃がムカついたり、腕や肩がこわばったり、息苦しくなったりと、前兆である身体反応が出ます。身体反応に気づけると『今、自分は怒っている』と気づくことができるので、怒りに駆られる前に止められます」

4.R=Reflect(振り返る)

「頭で冷静に振り返り、なぜ自分は怒りの反応をしているのかに気づくプロセスです。ビジネスの世界では、自分の期待値や信念に反することが発生すると、理性を失って怒りがちです。『こうあるべき』という強い信念があれば、いったん手放してみましょう。

ただし、マインドフルネスは評価・判断を手放して、あるがままの状態を受け入れるもの。振り返っている最中に『怒りを感じた自分はダメだ』とか『怒りをなかったことにしよう』とか、怒りを抑圧したり避けたりしないでください。ただ、怒りの根源となっている信念を手放してみると、そこまで怒る必要もないことに気づけるでしょう」

5.R=React(反応する)

「4までのプロセスを経ると、起きた出来事に対して衝動的に怒るのではなく、ほかに最適な反応がないかを探し、選択をし、行動できるようになります。たとえば納期に遅れがちな部下にただ怒るのではなく、いったん受けとめる。そうすれば『家庭で何かあったのか』と尋ねたり、仲の良い社員から声をかけてもらったり、あえて放置して様子を見たりと、無数の選択肢から適切な反応を選べるようになります」

理想的には、怒りにとらわれそうになったら瞬間的に、この5つのステップを3秒くらいで行うことだそう。とはいえ、習得するには時間がかかりますよね?

「もし『怒りに飲み込まれてしまった』と感じたら、後からひとりで5つのステップを振り返ってみましょう。そして『次に似たようなことがあったら、こういうふうに考えよう』と何度もシミュレートします。それを重ねるうちに、またいずれ怒りに駆られたとき、衝動的な怒りではなく、より最適な選択をして反応できるようになります」

本来は無数の選択肢があるのに、自分はたったひとつの「衝動的な怒り」という選択しかできていないと、トラブルに発展する可能性もあります。まずは自分で「無数の選択肢がある」ことに気づき、自分で反応をマネジメントできるように訓練することが、マネジャーには必要でしょう。

次回は、チームで行うことで結束力を高めるマインドフルネス実践編をお送りします。

【教えてくださった方はこちら】
荻野淳也さん
一般社団法人マインドフルリーダーシップインスティテュート代表理事。外資系コンサルティング会社、ベンチャー企業役員を経て企業。Googleで生まれたリーダーシッププログラム「Search Inside Yourself」の数少ない認定講師で、リーダーや組織の課題解決や変容を支援している。
https://mindful-leadership.jp/

■マネジャーに必要なスキル!心を落ち着け、チームをまとめる「マインドフルネス入門」
第1回:マインドフルネス入門 なぜマネジャー職に必須?
第2回:怒りを鎮め ストレスを和らげるマインドフルネス実践法
第3回:書く瞑想で心理的安全性を高める ジャーナリングマインドフルネス

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