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コミュニケーションの 質を高める

「自分が正しい」と思っている上司を変えた一言

誰しもが、経験を積みながら仕事を進める上で自分なりの判断基準を培っていくものです。しかし、自分が良かれと思って用いていた判断基準が仇となることもある。1つの判断基準に拘泥したために、自らも追い込んでしまったリーダーAさんのエピソードをご紹介します。

共感を求めるのは甘え?

とあるSierで初めてリーダーになったAさん。そのタイミングで初めてのメンバーに上司として向き合うことになりました。とある大規模プロジェクトの営業担当としてエンジニアや協力会社の方を含め、20名以上の人たちと一緒に仕事をしていました。様々なトラブルやお客様からの要望がある中で、大変ながらもやりがいを感じていたそうです。

刻々と変化する状況の中だからこそ、「論理性と一般常識」を重視することで責任を全うしなければならないと思い込んでいました。

「論理性と一般常識に照らした意思決定と行動をすれば間違いがない」
「論理性と一般常識を押さえていれば、みんな納得するはずだ」
「論理性と一般常識を押さえてさえいれば、成果が出る」
「成果が出なくても論理性と一般常識を一定クリアしていれば次につながる」

客観的に考えてみれば、大規模プロジェクトを成功させるには複雑な要素が絡み合います。何かの基準をクリアしさえすれば上手くいくということは残念ながら、ありません。

しかし、このプロジェクトの成功させるために、と念じるほどにAさんは論理性と一般常識を振りかざして周囲とコミュニケーションをするようになっていきました。その頃、Aさんは会議の場でこんな発言をすることが多くなっていました。

「どんな事情があろうと、当初の計画を厳守すべきではないですか」
「社内の損益状況を踏まえれば、お客様の要望を受け入れることはできませんよね」

当然、会議の場の空気は重くなりますが、全く意に介すことなく、Aさんは自分が正しいと思うことを振りかざして、社内外の人と接していました。そんなある日、先輩からこう言われました。

「あのね。君の言っていることは確かに正しいのだけど、周りの人の気持ちが分かっていないよ。もっと共感しないと、誰も君に協力したいとは思えないよ」

その時、Aさんには、その言葉の意味が分からなかったと言います。

「独断ではなく、客観的な正しさに沿って判断しているのだから、間違っていない」

むしろ、「僕に共感してくださいよ」と言っている周りの人が甘えている。

独りよがりな正しさから、共感へ

そんなことを繰り返しているうちに、Aさんと周囲の衝突は増えていきました。しかし、Aさんの主張が強かったが故に、ある程度意見が採用され、お客様からも信頼も勝ち取り、何とかプロジェクトを進めることができました。

しかし、このプロジェクトが上手く行ったからこそ、Aさんは、共感を意識しない成功体験を積んでしまったのです。

それからしばらくして、Aさんは、新しいプロジェクトを担当することになりました。それは、これまでの環境とは文化やコミュニケーションスタイルが全く異なるプロジェクトでした。自分の経験やスキルが全く通用せず、何をやっても上手くいかない。「論理性と一般常識」を武器にすればするほど、周囲のメンバーとも全く折り合いません。

その時は仕事をすることが本当に辛くて、社会人になってから初めて仕事が嫌になったAさん。遂には、出社することが辛くなってしまいました。その時に、Aさんが相談した人からもらったのはこのようなメッセージでした。

  • まずは自分の中で改善できることを冷静に考えよう
  • 仕事上の役割と自分という人格は切り離して、ONとOFFを切り替えてリフレッシュしよう
  • とにかく目的から逆算して、やるべきことだけに目を向けて集中しよう

そのアドバイスは全て論理的で一般常識に照らしても正しく、頭では納得できるものです。しかし、その時のAさんの耳には全く入らず、「やってみよう」とはとても思えなかったと言います。そんな時に一つだけAさんの心に響いた言葉があります。

ある先輩から言われた「それは辛かったね」という言葉でした。

たった一つの辛い自分を受け入れてもらえたという感覚が自分の中に芽生え、Aさんは初めて前向きな思考に変わっていきました。前向きになれたからこそ、Aさんは、具体的な改善策を考え、実行できるようになりました。この時、Aさんは、前述の先輩から言われた言葉を思い出したといいます。

「あのね、君の言っていることは確かに正しいのだけど、周りの人の気持ちが分かっていないよ」

『共感力』という書籍の中に、こんな一文があります。

ワシントン大学のカート・ダークスらの研究によれば、人々はリーダーの信頼性に対して非常に敏感だが、思いやりを示されるとリーダーへの信頼感を強める。簡単に言えば、共感を示してくれる上司に対して、脳はポジティブに反応する。

引用元:ハーバード・ビジネス・レビュー編集部. ハーバード・ビジネス・レビュー[EIシリーズ] 共感力 (Japanese Edition)

この経験を通してAさんが学んだことはなんでしょうか?

それは、「一般論として、正しいかどうかは重要ではない」ということです。

重要なことは、仕事で向き合う仲間の、その瞬間の相手に寄り添うことだったのです。辛い時や苦しい時にその人の耳に届くのは、正しい言葉ではなく、相手に寄り添った共感と、それをしっかりと言葉で伝えることではないでしょうか。

そしてまた、Aさんが改めて過去を振り返ってみると、当時の自分の考えや主張が必ずしも正しい訳ではなかったとも感じているそうです。立場や観点によって「正しいとされているもの」は変わっていくものであり、自分の考えを疑ってみる事も必要だと思うようになったといいます。

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